第3章 新たに
「なんでっ⁈」
私は後退りし、壁に背中が当たったのを感じた。
「やっぱり此処だと思った。記憶無くしてんのに此処は覚えてんだな。」
ゴツゴツしていて指の長い手が背後にある壁に向かって伸びた。
「逃がさねぇよ。」
凛との顔があまりにも近く、私は眼を逸らす。
「放っといてよ…ち、近いって…」
私の言葉を無視して余計に近づき、凛の額がコツンと当たる。
「お前、自分のせいだって思っただろ?」
図星を突かれ、生唾を飲み込んだ。
「やっぱりそうだと思った。あんまり自分を責めんなよ。そういう競技だ。水泳は。
挫折したらもう終わりだ。そんでもって自分がそれ位の程度だったってな。」
凛は何故か自分のことのように言った。
「何で分かったかのような口を利くの?」
私は苛立っているのだろうか、自分でも驚くほどに震えた声で質問した。
「俺がそうだったからだ。ハルに今、お前が思ってるようなことを思わせたからだ。」
壁についた手が離れ、私の頰に触れた。
「悠が気にすることじゃねぇ。泉って奴の問題だ。だから…」
凛は私の頬を軽く掴み引っ張った。
「凛、いひゃい…」
「お前はこうやって笑って、自分の好きに泳いでればいいんだ。」
凛はとても優しい目をしていた。