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Blood Moon Night

第5章 神の手


『暫く街に帰ることはできない』
それは此処に攫われてきた時からキサラには想像はがついていた事だった。

キサラ:「……。うん。帰られないことは攫われてきた時から薄々感じていたからわかってるわ。」

ガイタスの瞳の奥を見透かすかのようにキサラは真っ直ぐに答えた。
その様子にガイタスは少し驚いていた。

ガイタス:「そうか。中々肝が据わっているな。マルクがお前を救ったのにも納得がいった。」

そう言うと、彼はキサラに歩み寄った。

ガイタス:「キサラ。お前には頼みたい仕事がある。
その仕事が終われば、もう二度とヴェルカントにも人間の前にも姿を現さないと誓う。」

真っ直ぐな瞳でキサラを見つめて言葉を区切ると、続けてこう言った。

ガイタス:「……。そして。生きて行く上でお前に忍び寄る危険を、一生寄せ付けず守り抜くことを我がヴァンパイアの主、【マルク・ブランシェ】の名に懸けて誓おう。」

そう言うと、マルク以外のヴァンパイアはキサラの前に跪いた。

キサラ:「えっと……。あの……。」

キサラが返答に困っていると、マルクが近づいた。

マルク:「調合師と、治癒の力。二つの意味で【神の手】を持つ君にお願いしたい。
僕たちヴァンパイアが人間の血を必要とすることがなくなる薬を作って欲しい。どうか、どうか。願いを聞き入れてほしい。」

深々と頭を下げ、他のみんなと同じように跪いた。

キサラ:「……。わかりました。貴方たちの願い、聞き入れます。調合師として薬を開発します。
薬が上手く作れたら、調合法もお教えします。そしてその薬が作り終えるまでは逃げ出すことも絶対しません。約束するわ。
だから。頭を上げてください。」

キサラがそう言うと、マルクは立ち上がった。
そして、キサラの手を包み込むようにして握り、「ありがとう」と一言言った。

そうして、人ならざる【神の手】を持つ少女とヴァンパイア達はお互いに手を取り、各々が思い描く平和への道を歩み始めたのであった。






                   神の手  end
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