第19章 とある民族学者の論考 Ⅲ
裏庭で花の手入れをしていると話し声が聞こえてきた。
瞬時に気配を絶ち、正面口へ回りこんで物陰からその姿を確認する。
その風貌は招かれざる客人そのもの。
旦那様の屋敷を荒らす者は許さない。
この間の盗人ども同様、晒し首にしてやる。
中に入った奴等は2人1組になって別々に行動を始めた。
こちらがひとりだと知った上での行動なら、油断できない賢い判断。
あの黒尽くめの小僧が持っているのは恐らく仕込み傘。都合が良い。
黒い剣を具現化し、一番近くの応接間に入った2人組を追う。
家に入る前から気配を絶っている。殺気も漏れていない。
にも拘らず、ドアの向こう側で私の気配を感じ取って身構えたのが分かった。
一刻も速く相手を排除したい衝動を鎮めるため、ゆっくりとドアノブを捻る。
今までの相手とは違う
冷静に対処せねば
そう己に言い聞かせても、盗人どもを見た瞬間、怒りが激流の如く溢れ出して我を忘れてしまう。
「低俗な盗人は晒し首だッ!!」
前に出た黒尽くめの小僧に剣を振り下ろす。
持っていた傘には案の定刀が仕込まれていた。
私を切り刻む隙は十分にあったはず。
しかし、そんなことはせずに涼しい顔で私の剣を受け止めた。
「……そう」
戦闘を娯楽と考える外道か____
能力を発動するには、相手からの攻撃で死に至る必要がある。
だが、相手は私を直ぐに殺すつもりはなく、戦闘を楽しみたいようだ。
何度か攻防を繰り返していると、私を捉える隙を窺っていることに気付いた。
捕まる前に能力を発動させなければ。
迫り来る刃の前に、剣を滑り込ませるのを止める。
この攻撃も防ぐだろうと予想して切りかかってきた男は、予想外のことに驚きで目を見開きながら見事に私を真っ二つに切り裂いた。
“生ける屍”(ウォーカー)
「興味深い能力ね」
「これが使用人“達”の正体か」
私について知っていたのか……?
今までの盗人どもは腰を抜かして命乞いをしてきたのに、この状況で冷静なのは念での戦いに慣れているからか。
今度は2人で私達に攻撃を仕掛けてきた。
上手く攻撃を受け、再び能力を発動させる。
4人になった私達は2人だけ応接間に残り、後の2人は他の盗人を始末するために部屋を飛び出した。