第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
1932年5月7日
数年ぶりに開いた日記。
以前ほどの悲しみは感じなくなった。
アンネがいないことに慣れてしまったのかもしれない。
見るのを避けていた彼女の写真を眺める。
彼女と旅をした日々が鮮明に脳裏に浮かんでくる。
なのに、彼女の声がどうだったのかどうしても思い出せない。
人間は誰かのことを忘れるとき、最初に声、顔、そして思い出の順に忘れるらしい。
このままアンネの全てを忘れてしまうのだろうか。
怖い。
アマゾネスについての研究論文が完成した。
アンネに一番に読んで欲しかったが、周りに急かされてつい先日発表した。
論文は評価され、夢へ一歩近づいた。
彼女は今どこで何をしているのだろうか。
故郷がある場所は知っている。
だが、生きて辿り着けるか分からない。
ハンター協会に同行の依頼をしてみよう。