第12章 君にさよならを
小さい頃から、他の皆には見えないものが見えた。
それは煙の様に、ただ空中を漂っている。
風が吹いても飛ばされることはなく、その場に留まり続ける。
このような煙がそこら辺に漂っているのだ。
最初は不気味で怖かったが、次第に慣れて気にならなくなった。
「エッダ、薪を集めてきておくれ」
「はーい!」
村ではそれぞれに役割が与えられる。
まだ幼い私の役割は、主に薪集めや農作物の収穫の手伝い。
薪を集めるためにカゴを背負って村の外れへ向かう。
「境界線の柵を超えるんじゃないよ!」
「分かった!」
薪を集める時は、境界線の柵の近くへ行く。
境界線の近くには木々がたくさん生えているため、より多くの薪が拾えるからだ。
村の周囲は比較的安全だが油断はできない。
なるべく早く薪拾いを終えて戻らないと。
重くなったカゴを背負い、来た道を戻ろうとした時、
「!?」
柵の向こう側から音がした。
カサッ、カサッと一定の間隔で草を踏む音。
何か、来る……!
獣?それとも魔獣?
怖くて体を動かせない。
助けを求めたくても声が出ない。
その間にも足音はどんどん近づいてくる。
足音が止み、木の陰から足音の正体が姿を現した。
「!」
子どもだった。
私とそう変わらない歳で、初めて見る子だった。
「そこで何してるの? この柵から外に出ちゃダメだよ」
私はその子の腕を掴んで、柵の中へ引っ張り込もうとした。
しかし、
「ッ!」
私の手を振り払い、首を横に振った。
「中に入っちゃダメって、言われてる」
「え?」
それはおかしい。
私達子どもは、柵の外に出てはいけないのであって、むしろ入ってなければおかしい。
「村にも近付いたらダメって……」
「どうして?」
さっきから何を言っているのか意味が分からない。
柵の外にいては危険なのに、この子は柵の中の方が危険だと言いたげだ。
___エッダ!
「!」
遠くで母様の私を呼ぶ声が聞こえる。
戻らないと。
でもこの子はどうすれば……
「ここで会ったの誰にも言わないで!外に出たらダメって言われてるから」
「? 分かった」
母様達に言おうと思っていたが、困った表情を見たら言えなくなってしまった。
カゴを背負い直し、
「それじゃあ、さよなら」
と、手を振って別れた。