【YOI夢】ファインダー越しの君【男主&オタベック】
第3章 公私の国交
ゲストルームの扉を開けて中に招き入れた守道は、少しだけ居心地悪そうにソファに腰を下ろすオタベックを認めた後で、忍び笑いを漏らし始めた。
「あの時とは偉い違いだ。まるで借りてきた猫…いや、ユキヒョウのようだとでも言っておこうか」
「それは貴方も同じだろう。あの傲岸不遜な男が、見事に化けたものだな」
「これでも一応、今夜は在ロシア日本大使夫人の代理だからね。半ばプライベートとはいえ、外交の場での振舞いくらいは心得ているさ」
ついムキになって言い返したオタベックだったが、肩を竦めながら続けてきた守道の表情に、思わず舌を止める。
「…まさか貴方が、日本大使の子息だったとはな」
「正確には、俺の父親や家族が外交官なだけだよ。何せ俺は、あの家の異端分子で厄介者だから」
ネクタイを緩めると、口元を皮肉気に歪めた守道は、改めてオタベックに視線を移した。
「もう、二度と君と会う事はないと思ってたんだけどな」
「…お互いに」
そう答えるオタベックだが、心の何処かでは守道にもう一度会いたいと思っていた。
もしも、自分が試合を欠場しなかったら。
もしも、彼が家族の代理としてモスクワに来なかったら。
様々な偶然が重なり合った末の再会に、オタベックも守道も、不快とは異なる不思議な気持ちを密かに持て余していたのだ。
「故障と聞いたけど、本当に大丈夫なのかい?」
「さっきも言ったが、普通にしている分には問題ないんだ。足腰の痛みは、半ばスケーターの職業病みたいなものだし」
「まさか、あの時の事が原因なんじゃ…」
「あの時…?っ、ち、違う違う!それは関係ない!本当だ!」
守道の語意に気付いたオタベックは、慌てて首を横に振る。
「なら良いが…それでも、出来るだけ治療に専念した方が良い」
「お節介なのだな」
「かつて無理をして、取り返しのつかない事になった人を知ってるからね」
それが、過去に無茶な練習を繰り返した挙げ句、膝に致命傷を負った純の事だと気付くと、オタベックは複雑な表情をする。
「…サユリありきでないと、俺とは話が出来ないのか」
「何か言った?」
「別に」
少しだけ機嫌を損ねたようなオタベックを見て、守道は小首を傾げた。