第9章 おべんきょ
「...三成、」
「はい、何で御座いましょうか?」
「雪月の頭を撫でてやれ」
「?はい...失礼致します」
三成は初めて雪月と出会った時と同じように雪月の頭を撫でた。
ぽふっ、なでなで、
「...!」
なでなでなでなで...
「...ふみゅぅ...」
元々猫を飼っている三成。日課の如く猫を撫でているからか、扱いが上手い。あまりの気持ちよさに雪月の顔はとろんとし始めた。
「...雪月、」
「...ふぁい?」
「(完全に堕とされたな)三成に読み書きを教えてもらえ」
「ふにゃーい」
(これでは子狐ではなく、子猫だな...)
完全にリラックスしている雪月の返事に、信長は苦笑を浮かべた。
こうして、雪月の先生が三成に決まったのだった。
そして、そんなこんなで数日。
三成の教え方が良かったのか、元々雪月の飲み込みが早いのか、雪月は平仮名と簡単な漢字が読み書き出来るまでになった。
「流石です、雪月様」
「ふふっ」
誉められて頭を撫でてもらうのが何よりのご褒美。
今まで頭を撫でてもらうことも、ましてや、誉められることさえ無かったのだから嬉しさは倍増である。
(雪月様、良く笑うようになりましたね...)
最初の頃はぎこちなく、少し距離があった。
しかし、日が経つにつれ、少しずつ少しずつその隙間は埋まっていき、今では秀吉達と同じように「みっくん」というあだ名で呼ばれるまでになった。
人の表情を伺うような行動も、今ではほとんど見られない。
(...良かったですね、雪月様)
佐助から聞いた非現実的な話。
人体を使った実験。
人間として扱われない被験者達。
ほんの少し前まで雪月がそのような暮らしをしていたなどと、今の笑顔を見て誰が気付くだろうか。
「...ん、みっくん!」
「!」
考え込んでいたせいで雪月の呼ぶ声にも気づかなかった三成。
雪月は三成の顔を心配そうに覗きこんでいる。