第15章 であい
あの時のことは覚えている。
あれはまだ専門学校に通ってて、美容室でバイトしていた頃、一人暮らしで夜遅くの仕事帰りに深夜営業しているスーパーに買い物しに寄った時のことだ。
「……取れるかな」
スーパーの調味料コーナーで欲しい商品が1番上の棚にあった。背伸びをしても取れるか取れないか微妙なところ。夜も遅いからお店の人の巡回も少ないから頼めなくて、仕方なく頑張って背伸びをした。
「あと、もうすこし…っ、あっ」
もう少しで手に取れそうというところでバランスを崩した私は床にぶつかると思っていた。でも、ぶつかることはなく、むしろ支えられていた。大きな手で、胸に添えられて……
「大丈夫か?」
「…す、すいません…ありがとございます。あの、もう手、大丈夫です」
「え、あ、す、すまねぇっ」
最初は顔を見るのが怖くて、なんとか話すことが出来ると相手も自分の手がどこに添えてしまったのかに気づいて、慌てて離れてくれた。
もう調味料どころじゃなくて、この場から離れた方がいいと思って、相手の顔も見ないで立ち去ろうとした。
「あ、おい、調味料いいのか? 詫びといっちゃなんだが取るぞ?」
「……」
取ろうとしているところから見られていたようで、私は思わず立ち止まった。
「どれだ?」
「…1番上の、その、黄色のやつ、です」
商品を見るためにようやく顔を上げると、その人は私よりとっても大きくて、帽子をかぶって眼鏡をかけていたけど、帽子から見える赤い髪と眼鏡越しに見える鶯色の瞳には見覚えがあった。
「これでいいか?」
「あ、はい…ありがとございます…」
「おう…今度は気をつけた方がいいぞ…」
「はい…」
お互いあんなことがあったから気まずくて、その時はそのままお互いに立ち去った。
お会計を終わらせて早く家に帰ろうと歩いた。スーパー自体が家からそんなに離れたところじゃなかったのが幸いして、すぐに着いた。着いたんだけど…
「よりによって隣か…」
「……」
小さい呟きに思わず振り向けば、スーパーで会った大きな人、もとい人気アイドルの鬼龍紅郎がそこにいた。
私はその時マンションの角部屋で、手前の部屋は私が入った頃の時点で空き部屋だった。きっと家にいない時間帯に引っ越してきたんだろう。
「えっと…その…よろしくお願いします」
「こっちこそよろしく頼みます」
