第1章 焦がれるは…
まさか1人で紅月のライブビデオを見て過ごしていたなんて思わなかった。これまでそんなものを持ってる気配なんてなかったし、存在感のあるまんじゅうクッションだってどこにしまっていたのやら…
「…あや? そろそろ顔が見てぇんだけど?」
「……」
まんじゅうクッションを抱き締めて、顔を上げるのを拒否する嫁さん。顔が崩れるくらい抱き締められているまんじゅうクッションになんだかムカついた俺は無理矢理まんじゅうクッションを取り上げて抱き締めて、顔を上げさせると顔を真っ赤にして涙目になっていた。
「…え、と、その…ごめんなさい…」
「なんで謝るんだよ?」
「服、かりたから…」
「それくらい別に構わねぇよ?」
悪いことをしていないのに謝りだす嫁さんが可哀想で、目尻から零れる涙を指先で掬った。ポロポロと流れる涙はなかなか止まらなかった。
「あや、もしかして寂しかったか?」
「……ごめんなさい」
「謝んなくていい。俺の方こそごめんな?」
「紅郎くんは、悪くないの。私が勝手に思ってただけだから…」
そういや、ここしばらく帰ってもすぐ寝てばっかでろくに話もできなかったな…前は話してた回数はそれなりにあったはずだ。
……もしかして、夜遅くに寝るのは俺のリズムに合わせようとしてたからなのか? いつも俺が寝る頃まで待とうとしていたし…
「いや、お互い様だろ。気づけなくて悪ぃ…」
「そんなことないよ…紅郎くん、アイドルもデザイナーの仕事も忙しかったんだもの。むしろ疲れて倒れないかのが心配」
「お前なぁ…」
そうだ。あやは自分より他人優先な奴だ。我儘なんて自分から言うのが苦手なのは、前からわかっていたことじゃねぇか…
だからオフが重なっても俺が休めるように全部家事やっちまって、寝るのも邪魔しないようにリビングで過ごしてたわけか…
全部そうさせてたのは間違いなく俺だ。あやに肩の力を抜かせられなかったのも俺のせいじゃねぇか。
「紅郎くん? 大丈夫? やっぱり疲れてるんじゃ…」
こんな不安そうな顔までさせて…俺もまだまだだ…
あやを強く抱き寄せた。久しぶりのあやの感触がとても心地いい。わけのわかってないあやは俺の背中に腕を回して優しく撫でてくれている。