第3章 その心は
上から声が聞こえてきたと思ったら、なんでかお風呂上がりの紅郎くんがいた。髪を下ろして、水も滴る色気のある男とは、まさにこういうことなんだろうなと毎回見て思うんだけど…
あれ、帰ってくるのはまだ先のはずじゃ…
「紅郎くん?」
「やっと気づいたな。仕事が早く片付いたから帰ってきたんだが、テレビ見てて気づいてなかったから先に風呂入ってきた」
「あ、ごめんなさい…」
「気にすんなって。それより他に言うことあるんじゃねぇか?」
「おかえりなさい、紅郎くん」
「ただいま」
紅郎くんが帰ってきたのに気づかなかったとは、私どれだけ考え事してたんだろ…と言っても、紅郎くんのことなんだけど…
なんだか前にも同じようなことがあった気がして思い出そうとしていたら、しゃがみこまれて、そのまま腕の中に抱き込まれてしまった。
「さっきから何観てん、だ?」
『お前達、何騒いでんだ?』
あ、ちょうど紅郎くんが出てきた場面だ。
「なんでこんな前の観てんだよ…」
「久しぶりにいいかなって…紅郎くんも帰ってこないと思ってたし。明日お休みだし」
「お前なぁ…これ買ったのか?」
「ううん。録画したやつ」
「……?」
「どうかした?」
紅郎くんが首を傾げて私を見るものだから、どうしたのかと思って聞いてみた。
「これ、高3の時のだぞ?」
「知ってるよ?」
「なんで録画してたんだ?」
「だって、紅郎くんが出てたから…」
あ、これで高校から紅郎くんがアイドルしてるのを知ってたのがバレた? でも、紅郎くんと今までそういう話もしてなかったし…別に隠してるわけでもなかったし…
「もしかして結構前から俺のこと知ってたか?」
「というより…人生の半分くらいは同じ学校にいたけど……」
「……?」
「幼稚園から中学はずっと同じだよ? クラスも被ってたこと何度かあったし…」
「……は?」
紅郎くんがここまで呆けるところを見るのは初めてだなー。昔から物静かだったこともあったからこんなに大きな目に見える反応は初めてかも。
「そんなの聞いてないぞ?」
「だって、会った時には覚えてなさそうだったから言わなくていいかなって…」
「そこは言えよ」
「ははは…」
「お前なぁ…」
ため息をつかれて、また更に抱き締められてしまった。