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ゆるやかな速度で

第4章 3.再会



無理しないで良い。
【名前】には【名前】のペースがある。
ゆっくりで良いと思う。

そんな風に優しく私を包み込んでくれる様な微笑みだった。
あぁ、私は何度この微笑みに救われてきていたのだろうか?
今も縋り付いて、勇気を出すことを止めてしまいたい衝動に駆られる。

でも、それじゃいけないという声も自分の中で響く。
このままではいつまで立っても私は変わる事が出来ない。
そんなの嫌だと心の中で違う私が叫ぶのを感じる。

何度か深呼吸をして私は震える手を落ち着かせる。
そして心配そうに私を見ている彼女を安心させる為に微笑み返した。

「大丈夫」

私が落ち着いた声で返事をすると、一瞬驚いた表情を見せた綾子ちゃんは少しだけ寂しそうな表情で「わかった」とだけ返事をしてくれる。
この時の私は自分のことで精一杯で何で、綾子ちゃんが寂しそうな表情を見せたのかなんて理解することは出来なかった。

ガラッと勢いよく教室の扉を開く。
何時も通りの朝のHR前の教室はまだ時間に余裕があるので、全員揃ってはいないが既に来ているクラスメイトたちはいた。

何人かで集まって会話をしている人たち。
予習をするために教科書を開いている人。
ボーッと外を眺めている人。
慌てて宿題をするために誰かにノートを借りながら必死に手を動かしている人。
色んなクラスメイトたちが教室にいた。

私は、そんな彼らをチラッと見渡してからすぅっと少しだけ息を吸い込む。

「お、おはよう!!!……ございます」

自分でも思っていたより大きな声が出てしまい驚いた。
私が突然大声を出した事に驚いたのか談笑していた人たちも会話を止めて、驚いた表情で私を見ていた。
クラスメイトに一斉に視線を向けられてしまい、初めての挑戦にしてはやりすぎてしまったと、途端に恥ずかしくなって挨拶の最後の方の声は尻すぼみとなってしまう。
何か言わなければと、妙な空気になってしまった教室の入り口で私が狼狽えていると、後ろから綾子ちゃんがフォローしようと口を開いた瞬間の事だった。

「こないなとこで立ち止まって、どうしたん、【名前】?」
「白石くん」
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