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ゆるやかな速度で

第4章 3.再会


「……」

ごくりと息を飲む私とそんな私を心配そうに見つめる綾子ちゃん。
場所は朝の教室の前。
震える手を今、私は教室の扉にかけようとしていた。

遡る事、数日前。
白石くんが遥斗にテニスを教えに来てくれた日の夜。
白石くんにお礼のメールを私はしたためた。

白石くんはとても親切で優しくて、逆に初心にかえれたから気にせんといてという返事が来た。
そのメールを見て、私はやっぱり彼はとても優しい人だと思った。
そして何時も通りに何度も普通のメールのやり取りが続いた。
だけど、何通目かで彼からのメールの返事に私は少し動揺してしまい携帯を持つ手が震えた。

『【名前】に学校でも話かけてええ?』

質素なメールの文章。
普通の人なら何の飾り気のない文章に相手を怒らせてしまったかと焦るかもしれない。
私も最初の頃ならそう思っただろう。

でも何度かお話して、メールもやり取りしているから知っている。
彼はただ単にメールの文章がシンプルなだけだと。
だからこれは普通に私を気遣って最初に聞いてくれたのだろう。
先に学校で声をかけられてしまったら心構えが出来ていない私が困るかもしれないと。

これに対して『いいよ』と返事をすることは簡単だった。
でも今の私に直ぐに返事をすることは難しかった。
でも…少しでも変わりたいと思っているのなら勇気を出して何事も挑戦してみるべきだとも思った。

私はメールの返事をするよりも先に白石くんの番号の通話ボタンを衝動的に押す。
呼び出し音が耳に響き、その瞬間に自分の行動に驚いてしまう。
急に電話なんてして迷惑だと思い電話を切ろうとした瞬間に『はい』という声が電話から微かに聞こえてきて、慌てて電話を耳元へと移動させる。

「あ…そ、その……ごめんなさい」
「急に謝罪から入るん?驚いたけど気にしてへんで?どないしたん?」

クスクスと笑う白石くんの声が耳元から響く。
彼の優しい声音が少しだけくすぐったくて電話なんてするんじゃなかったと別の意味でも後悔した。
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