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ゆるやかな速度で

第12章 10.休暇


「……【名前】?」

図書館へ入った瞬間に私は聞き覚えのある声に呼ばれ、ふと視線を動かすと見知った顔の人が私に対して軽く手をあげていた。

「白石くん」

そんな彼に気付き、私は白石くんの方へと歩み寄る。
彼に『図書館に用事?』と言われて頷いてみたが、頷いた私が苦笑していたので彼が不思議そうな顔をする。
だから私はここに来るまでの事情を告げてみた。
白石くんに笑われはしないだろうか?と少しドキドキと脈打つ鼓動が早くなるのを感じながら私の話を聞き終えた白石くんの顔を見る。
少しだけ笑った彼は、私にとって驚く提案をしたのだった。

「迷惑やなかったら付き合うてもええ?」
「え」

彼の言葉が嫌だったわけではない。
予想外の言葉に私は驚いてしまい言葉に詰まってしまった。
でもそんな私の心情など知らない白石くんは少し困り顔で『無理にとは言わんけど』と付け足してくれる。
私は慌てて首を左右にふり、提案が嫌だったわけではないという意思表示を先に行った。

「その…嫌なんて事は本当になくて…。ただ帰ろうとしてたから用事があるのかなって」
「なるほどな。俺も今日はほんまに何もない…とまでは言わんのやけど。気分転換に本を借りに来ただけやから」

そう言って白石くんは苦笑しながら気分転換の理由を教えてくれる。
新聞部にも所属している白石くんは校内新聞で執筆している物語がある為に、それに煮詰まってしまって気分転換に図書館に来た事を教えてくれたのだった。

「あのお話って白石くんが書いてたの!?」
「読んでくれとったん?なんや照れくさいな」

校内新聞を読んではいたけれども執筆者欄を把握していなかった私はとても驚いてしまう。
確か、毒草聖書という名前での連載が最近始まっていた。
毒草の知識が凄くて、知らない草花のことも出てくるので為になるなと思っていたけれど、まさかあれを白石くんが書いていたとは思っていなかったので驚いてしまった。
きちんと作者欄も読んでおくべきだったと私は内心反省した。
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