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ゆるやかな速度で

第10章 8.合宿02


「ほな、私達も部屋に帰りまひょか」
「せやな」

私が2人のオセロの内容を思い出しているうちに小春くんとユウジくんがいつの間にか部屋に戻る支度を終えていた様だ。
慌ててこの場を立ち去る2人に『また明日』と声をかけると私達に向けて手を振ってからこの場を立ち去っていってしまう。

そしてこの場に残されたのは私と白石くんと渡邉先生の三人だけになってしまった。
もしかしたらこの後、白石くんと渡邉先生で何か話しがあるかもと思い、私は1人でこの場を立ち去る為に2人に声をかけようと口と開いた瞬間だった。

「変な事なんて起こらへんとは思うけど念のために部屋の前まで送っておいてやってな、白石」
「元々そのつもりやで」
「そうか。……白石」
「ん?」
「お前が送り狼に――」
「ならへんわ。何アホなこと言うとるん、オサムちゃん」

白石くんが先生の言葉に呆れながら返事をしているのを横で私は聞いていた。
送ってもらうなんて申し訳無さ過ぎると、私が断ろうとする隙きを2人は一切与えてはくれなかった。
そのために私はただ黙って2人のテンポの良い会話を聞いていたのだった。

「じゃ、行こか」
「その…ありがとう、白石くん」
「ええって。俺の部屋とそんな離れてへんし、気にせんといてな?」

私が気にしない様にと白石くんが優しく笑う。
やっぱり彼は相変わらず優しくて気配り上手で素敵な人だと思った。

それからは普通にロビーから部屋の前まで2人で歩く。
白石くんとはこうして他愛も無い話をしていても緊張しなくなってきていた。
それが私には嬉しく思った。
彼の言葉は優しくて…どこか安心するなと感じながら歩いていると、私の部屋の前まで来てしまっていた。
何だか名残惜しいと思ってしまってさえいる私の感情に戸惑いつつも私は彼に挨拶をする。

「おやすみなさい」

私がそう告げて部屋の扉を開けると、白石くんの『おやすみ』という優しい声音が後ろから響く。
扉を閉める前に目に入った彼は私の想像通りに優しい表情をしていたのだった――。

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