第3章 気付くのはいなくなってから
インターハイ全国大会一回戦。私達翔陽高校の対戦相手は大阪代表の豊玉高校だ。早い攻撃が得意なチームと聞いているけれど、うちのディフェンスも早さに対抗する練習は積んできた。勝てる自信はある。
会場の総合体育館に到着すると、各校の関係者の熱気で溢れかえっていた。何度も神奈川県代表として全国大会へ出場しているうちにとっては経験している空気だけれど、この独特な緊張感は慣れるもんじゃない。それでもキャプテンの斉藤くんは堂々と歩みを進めていく。
「月丘、荷物重くなかったか?すまないな、遠征は人数が少なくて」
「このぐらい大丈夫だよ。荷物運びもマネージャーの仕事だから。それに…」
ここの入口まで、藤真がほとんど持ってくれたんだよね。
…って普段ならキャーキャー周りに言いふらすのに、最近はなんだかそういう事が言えなくなってしまった。インターハイ前に藤真にチクチク言われたから、やっぱり気にしてしまう。
チラリと藤真を盗み見ると、ツーンと素っ気ない態度でレギュラーメンバーの一番後ろを歩いていた。…お礼ぐらい言わせてくれてもいいじゃないか。生意気な奴め。
ゾロゾロとみんなで地下に降り、翔陽のロッカールームを目指す。中に入るとクーラーが効いていて天国のように思えた。
「いいか、あと1時間後にアップ開始だ。腹に食いモン入れてもいいが、いっぱいにするんじゃねーぞ。じゃ、ひとまず解散!」
斉藤くんから解散の号令が出たところで私はトイレを済ませておきたくて、ロビー横にあった女子トイレを目指す。慌てて階段を昇ろうとしたせいか、角を曲がった瞬間人とぶつかってしまう。
「ぎゃっ…!!」
「おわっ!!」
随分ガタイのいい人とぶつかってしまったらしく、私は尻もちをついた。な、なんて格好悪い…。斉藤くんに見られなくて良かった。
「…しょーよー?」
「せやな。翔陽高校の関係者さんやな」
ぶつかった相手の人は私に手を差し伸べながら、私のジャージに書いてあった学校名を読み上げる。差し出された手を掴ませてもらい立ち上がると、私は頭をバッと下げてすぐさま謝罪をした。
「す、すみません。お怪我はないですか!」
「…あー…俺らは大丈夫やけど……ロッカールームにいるってことはマネさんか?」
「はい。翔陽高校バスケ部のマネージャーです」
「ほーおー」