第6章 雨水は甘い蜜
「じゃあな」って、またロードワークに戻っていく藤真の背中を、私は見送ることしかできなかった。
「甘い……」
藤真とキスした唇はひたすら甘い。しかし余韻に浸っている時間はなかった。背後から二回目の給水に入ってくる斉藤くん達が、バシャバシャと公園に入ってくる音が聞こえたからだ。
「ほんっと、生意気……」
藤真は気付いていたのだろう。斉藤くん達が近付いてきていることに。雷もひどくなる一方で、今日のロードワークは中止となったことを、私はたったいま斉藤くんから聞いた。
……藤真はもしかしたら、今日中止になったことも、知っていたのかもしれない。
―――――――“返事は明日聞かせてくれ”
いつもより低く感じた藤真の声が、脳にこびり付いて離れない。