第1章 見せかけの飴細工は溶けてなくなる
あっ……という間だった。
ダンクシュートを見るのも生まれて初めて。1点差という試合終了間際の局面。しなる体を自由に扱い空中を飛ぶ彼の姿に、自分の時間が止まるのを感じた。
劇的な逆転を決めた彼に文字通り一瞬で恋に落ち、私は彼を支える道を選択した。
どんな立場であっても構わないと――――覚悟は決めていた筈なのに―――。
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「……先輩。せーんぱい」
「…あ、藤真」
バスケ部後輩の藤真に声を掛けられて、私はハッと意識を引き戻した。これでもかという大量にあるボトルを流れ作業で洗っているうちに、どうやら過去の思い出に浸ってしまったらしい。
「…水出っぱなし。しかもボトル全然洗ってない」
「ははは、ごめん。ちゃんとやるから」
藤真は一つ年下の後輩だけど、とてもしっかりしている。うちの部は十年ぐらい前から監督もコーチもいない強豪校にあるまじき環境だけど、部員達で支え合ってなんとかやってきた。今度のインターハイが終わったらそんなしっかり者の藤真率いる二年生達にバスケ部を明け渡す予定だけど、次期トップは間違いなくこの藤真だろう。
「藤真今日もかっこ良かったね。シュートも安定してたし、来週のインハイも安心だよ」
「…先輩の“かっこいい”はもう信用してないし、聞き飽きた」
「えー!ひっど!」
本当に今日の藤真もかっこ良かったのに。パス練から始まってフットワーク、3対3のミニゲームというメニューだったけど、藤真は大活躍だった。PGとして周りをよく見渡し、絶妙なパス回しに徹しているかと思いきや、突然のスリーポイントシュート。見学に来ていた女子達の悲鳴は鳴り止まなかった。
その様子を思い出しながらニヤニヤとボトル洗いを再開すると、藤真は隣の蛇口を捻って水を出し、いきなり頭を突っ込んで髪の毛を水浸しにした。ジャ――――と、洗い場に跳ね返った水滴がこちらにも飛んでくる。
「………キャプテン」
「んー?キャプテンがどした?」
藤真は水を浴び続けたまま呟くから、非常に聞き取りづらい。自信家の藤真らしくもない、ちょっと元気のない声。
「先輩、キャプテンばっか見てただろ」
「え……」