第3章 気付くのはいなくなってから
「そんな……いま藤真が抜けたら…」
「ていうかそんな事言ってる場合じゃねえだろ!藤真、藤真!!聞こえねーのか!」
「藤真……」
翔陽のベンチは騒然となった。もう既に実質のエースとして試合を回していた藤真がいなくなることは、私達に「敗北」という二文字の絶望を与えてくる。
「くそっ……!勝てる試合なんだよ…!藤真がいてくれさえしたら……!」
「斉藤くん…」
斉藤くんが握りこぶしをギュっとして下に俯き、悔しそうに呟いた。それは誰しもが感じていることだった。まだ第一クォーター途中だけどうちが押していたし、充分に勝てる内容だ。ベンチ控えのメンバーも藤真に駆け寄り、応急手当をしている先生からは僅かに距離を取りながら藤真を見守ることしかできない。
そうこうしているうちに試合会場の入口ドアが開けられて、
救急隊員が担架を持って入ってくる。そっと担架に乗せられた藤真は意識を取り戻したようで、勢いよく起き上がろうとした。
「藤真、起きちゃダメ!私が付き添って病院行くから…」
「駄目だ、来るな」
「え……?」
翔陽メンバー全員に見守られながら、藤真は私の目をジッと逸らすことなく見つめて言葉を放つ。
「……マネージャーは先輩しかいないだろ。最後まで、試合を頼みます」
「藤真………」
こめかみからは未だに血が止まらず、既に汗も引いた顔は真っ青だ。藤真は斉藤くんに向かって一つだけ力強く頷くと、斉藤くんもまた頷き返した。顔色は最悪のクセにフッと笑ってみせたりなんかして。
―――――――こんな時に気付きたくなんてなかった。
藤真がいるチームが当たり前になってたなんて。藤真がいないこの空間がこんなにも心細いなんて。私ですらこんなにも不安なのに、選手達の不安は計り知れないものだろう。
私はいつの間に、こんなにも藤真を頼っていたのだろう。
私達の不安はそのまま試合の流れに直結し、結局翔陽高校は豊玉高校に大差を付けられ敗北した。