第10章 貴方と過ごす安土~三成編~
意を決して襖を開け、私の視界に飛び込んできたのは本。本。本――。
学校の図書館にあるであろうの本が、ひたすら縦積みにしたかと思える光景が広がっていた。その光景だけでも圧倒されそうなのに、その積み方はとても危うく、今にも崩れてきそうな場所が何か所もある。
「…………」
思わず絶句していると、再び老婆の小物の忍笑いが耳に届く。
《見事な固まりだのぉ》
「……うるさい。まさか、この中に三成君がいるとか言わないよね」
《さぁ?》
「あのね……」
私はダメ元で声をかけてみる。
「三成君ー。いるー?」
沈黙。
(やっぱり私の勘違いだよね、うん)
そう結論付けて踵を返そうとしたその時、老婆の小物が私の肩から飛び降りて部屋の奥の方へと駆けていく。
「ちょっ……!」
私は慌てて幾多の書物の山を崩さないようにしながら追いかけて、老婆の小物を捕まえようとするが、あまりにもすばしっこく、遊ばれているとしか思えなくなってきた。
「この……っ、いい加減に…!」
僅かに老婆の小物の動きが止まったのを見計らって私は勢いよく手を伸ばす。だが、老婆の小物は鼻で私を嘲笑うかのように、私の手が触れる直前に身を捻ってかわした。
(あ……)
その後体勢を変えることも出来ぬまま、私は比較的本が積まれていない所へ突っ込んでしまった。
幸い本の山が崩れることはなかったものの、改めて目にした光景に目を見開く。
「は………?」
そこには眼鏡をかけた三成君が身体の大半を本に埋められたまま真剣な顔で書物に目を通していたのだ。
「み、三成君…?」
何とか声をかけてみるものの、三成君の表情は変わらない。
(もしかして…私がいること自体、気付いてない?)
そう思い当たると同時に、妖討伐をする前の食事の席で秀吉が本を読んでいる三成君の口元に食事を運んであげていたことや、政宗さんが「あいつは集中すると寝食を忘れて本を読み続けるんだ。俺が言わなかったら丸一日……いや、下手したら数日はそのまんまだな」と教えてくれたことを思い出す。
改めて噂で聞いていた三成君の集中力の凄さを目の当たりにした気がした。とはいえ、私自身も小説の読書が趣味なので、気持ちが分からなくもないのだが。目の前の惨状は私の想像を遥かに越えていた。
しばし唖然と三成君を見つめていたが、気を取り直しーーー