第8章 貴方と過ごす安土
どこまでも蒼く澄み渡った空が人々を照らす。今日も安土では平穏な日が始まる――筈だった。
平穏とは裏腹な慌ただしい足音が城内の廊下に響き渡る。
朝餉と共に軍議を開いていた武将達はその足音を耳にすると、緊迫した空気を漂わせた。
「御報告、申し上げます!」
息を切らした家臣が声を上げる。秀吉が素早く襖を開けた。
「何があった」
「ハァ、ハァ…た、珠紀様が御倒れに――!」
「⁉」
「何っ⁉」
妖討伐が終わり、目覚めてから数日。
珠紀はいつも朝日が登る前より早く起きて、一人鍛錬を行っている。
だが、今日に限っては朝餉の刻になっても広間に現れなかった。
心配しないといえば嘘になるが、常に独りでいることを好むあの娘がいなくとも誰も気にしない。だが、城内にいるにも関わらず、何かに巻き込まれたかもしれないと、それを聞くや否や、秀吉をはじめ、家康と政宗は廊下を全力で駆け出した。
信長は慌てることなく、家臣に問いただす。
「珠紀が倒れたのは何故だ」
「分かりません。庭師と女中が中庭に倒れている珠紀様を見つけたとのことです」
「……そうか。軍医を呼べ」
「はっ」
家臣は素早く身を翻した。
「……まさか、まだ妖というモノとの戦いの傷が癒えていないのでしょうか」
心配そうに三成が呟き、いつもの笑みをひそめて光秀が口を開く。
「いや、家康が診ていたんだ。何か別の理由だろう」
「それは彼奴等に任せる。続けるぞ」
「はっ」
「はい」
広間はそのまま三人の軍議が続けられた。