第1章 恋の始まり
手首を誰かに掴まれて、ぐいっと引き寄せられた。
舞「わ...っ」
バランスを崩して倒れ込み、目を開けると...
???「痛ってー...」
舞「...!すみません」
体格のいい男の人が、私の下敷きになっていた。
(早くどかなきゃ!)
???「っ...、バカ、待て!」
立ち上がった途端、背中から抱き締められる。
(......!目の前、崖だったんだ)
???「あー......焦った...」
舞「ありがとうございます、助けてくれたんですね...」
振り向くと、鼻先が触れそうなほど近くに彼の瞳が迫っていた。
???「............!」
(わ...っ)
???「礼なんていらねーから離れろよ」
舞「は、はい!」
(イケメンのドアップは心臓に悪い...っ)
急いで離れようとして、手首をぎゅっと掴まれる。
???「待て、急に動くな」
舞「えっ、でも、離れろって言ったじゃない」
???「滑りやすくなってるから足元ちゃんと見ろってことだ。それくらい見て分かれよな」
(現代人にそんなスキルないよ...!って言っても通じないよね)
舞「すみません...」
???「...っ、別に怒ってるわけじゃねー。キツい言い方して悪かったな。ほら、こっち来い」
苦笑いして、彼は大きな手のひらを差し出した。
舞「ありがとう」
(ぶっきらぼうだけど悪い人じゃないみたい...)
差し出された手を取り、崖のふちから離れると...
???「んー?知らない土地にきて、さっそく女の子引っかけたのか、幸(ゆき)」
(え...?)
長身の男性がにこにこ微笑みながら、林の奥から歩み寄ってきた。
幸 「勘弁してくださいよ、信玄様。この女、崖に飛び込もうとしてたんです」
舞「違います!ちょっと目をつぶって走ってただけで...」
幸 「はあ?なんで夜の森でそんな真似してんだよ、お前」
舞「それは、現実逃避というか...」
信玄「本能寺で火の手が上がったって夜に女の子が独り歩きとは...物の怪のたぐいかな?にしては美人だが」
舞「っ...いえ、ごく普通の人間です」