第1章 恋の始まり
秀吉さあんと光秀さんがすっと左右に控え、信長様がそばへ歩み寄ってくる。
信長「貴様は未来から来たとぬかす大たわけで、俺の命の恩人だ。幸いを運ぶ女に違いない。気に入った」
舞「はい?」
目を見開くと、信長様は私の腰を強引に抱き寄せて...
信長「貴様、天下人の女になる気はないか?」
(ええっ!?)
腰を抱き寄せられ頭が真っ白になった私は...
舞「すみません!転職先、決まってるので...っ」
信長「は?」
信長様の腕を、がむしゃらに引き離した。
秀吉、光秀「舞?」
現代から持って来ていたバッグを抱え、陣営から飛び出す。
近くの林に駆け込み静かになるのを待って、ようやく足を止める。
(ここまで離れれば大丈夫だよね......待って、全然大丈夫じゃないかも)
ふと冷静になり、私はバッグから『イケメン武将トラベルガイド』を取り出した。
『謀反を起こし信長を自害へ追い込んだ光秀は、三日間天下を得ましたが、後日駆けつけた豊臣秀吉によって討伐されました』
(この本に載ってるエピソードが、私の知ってる歴史だ。織田信長が生きてて、明智光秀が謀反を起こしてないなら...。あれ?歴史、変わった?)
とんでもない結論に達したその時、リン...と鈴の音が鳴り、落ち葉を踏む足音が聞こえてきた。
???「夜分に女子(おなご)がひとり歩きとは...どうなさった?」
振り向くと、笑みを浮かべた男性がこちらに歩み寄ってくる。
(お坊さんかな...)
顕如「私は顕如(けんにょ)と申す旅の僧だ。困ったことがあるなら相談に乗ろう」
舞「い、いえ...気持ちだけで十分です」
(なんだか、この人...本能寺で信長様を襲ってた人に......似てる、ような...)
息を呑んだ瞬間、彼が大またで私の方へ踏み込み肩に手を乗せた。
顕如「早く家へ帰るといい、お嬢さん。夜の森は鬼がうろついているからな」
舞「っ......どうもご親切に!」
恐怖がつのり、私は彼の手を逃れて、また駆け出した。
(もう嫌!次々変な男に絡まれるし、道は整備されてないし電灯もないし...。夢なら覚めて!)
バッグを胸に抱いて走りながら、思わずギュッと目をつむる。
???「おい!」
(え...?)