第1章 恋の始まり
(いけない、びっくりしてつい...)
信長「その女のことは気にするな。舞といって......俺の命の恩人だ」
光秀「おまえが信長様を助けたと...?見たところただの華奢な小娘だが...豪胆な女だな」
(なんだか妖しい笑顔...。品定めされてるみたいで落ち着かない)
秀吉「...光秀。どうしてお前がここにいる」
光秀「お前の方こそどうした。京にいるとは聞いていないが?」
秀吉「信長様暗殺の報を耳にして飛んできた。だが...お前まで京へ向かったとの報は、俺は受けていない」
光秀「何が言いたい?」
秀吉「後ろ暗いところがないと信長様に誓えるか?」
ふたりは静かにお互いを見据え、急に空気が張り詰める。
(っ...そうか。豊臣秀吉は、明智光秀が信長を襲った犯人だって疑ってるんだ)
光秀「後ろ暗いところがない人間なんて、この乱世にいるのか?」
秀吉「はぐらかすな。いい加減、腹の底さらせ」
怒りをあらわに瞳を光らせ、豊臣秀吉が刀の柄(つか)に手をかける。
(この人は温厚そうに見えたのに!)
秀吉「万が一、信長様を手にかけようとしたのがお前なら...容赦しない」
舞「その人じゃないと思います...!」
秀吉、光秀「は?」
(口出しなんてしたくないけど、刀を振り回すつもりなら黙ってられないよ)
舞「私は織田信長を...っ...じゃなくて信長様を襲った人影を見ましたけど、着物の形が違ってました」
(暗くて顔は見えなかったけど、明智光秀とは別の人だ)
秀吉「口を出すな。...舞、とか言ったな。お前の件は後で追及する。何の目論みで信長様に近づいたか確かめる」
舞「なんでそうなるんですか!?私は巻き込まれただけで...っ」
信長「やめろ、秀吉。光秀がここへ来た思惑はどうあれ俺は無事だ」
秀吉「っ......!信長様、失礼しました」
秀吉さんの手は、刀の柄(つか)から即座に離れた。
(信長様の言うことは聞くんだ...。そういえば豊臣秀吉って信長の忠実な家臣だったよね。この人たち、やっぱり本物みたい...)
信長「秀吉、光秀。貴様らはしばらく黙っていろ。俺は舞に話がある」
舞「えっ、私ですか...?」