第1章 恋の始まり
舞「あ、いえ、持ってなくて...」
彼と思わず顔を見合わせた時...。
舞「!きゃっ!?」
稲妻がひらめいた直後、目の前で石碑が砕け散った。
(嘘でしょ!?目の前で落雷なんて......)
???「君、危な......」
舞「え?」
周囲が霞み、私に向かって手を伸ばす彼の姿が見えなくなって...
ぐにゃりと視界が歪んで、思わず目をつむる。
(何が起きたの......!?)
めまいが治まりまぶたを上げると、周囲に煙が立ち込めていた。
(あれ!?私、京都の道端にいたはずだよね...?何で部屋の中にいるの?ここ、どこ!?それにこの煙、まさか火事...?)
辺りを見回しても、さっきの男性の姿はない。
その代わり、私の目にとんでもない光景が飛び込んできた。
(え......!?)
甲冑を着た男性が柱にもたれて眠っている。
そして...
部屋の隅に、長い棒のようなものを手に男性に忍び寄る人影があった。
(長い棒っていうより......刀!?)
煙の中を舞う火の粉が、切っ先をギラリと光らせる。
舞「危ない...!」
私が叫んだ瞬間、刃物を持った人影がはっとしたように足を止める。
眠っている男性に走り寄り揺さぶると、彼は眠たげにまぶたを持ち上げた。
???「っ......?誰だ、お前は」
舞「自己紹介は後でします!立って、今すぐ!」
(何が何だかわからないけど逃げなきゃ!この人、殺されちゃう...っ)
舞「私の手に掴まってください!」
???「......」
私は彼の手を取り強く握って引き上げ、すぐさま駆け出した。
(っ......めちゃくちゃに走ったけど、何とか外に出られた)
振り返ると、大きなお寺が煙に巻かれて燃えている。
(夢でも見てるのかな...)
???「俺の寝入りを狙い鼠(ねずみ)が忍び込んだか。無謀な輩がいたものだ。護衛を全員手にかけ近づくとは......おい、女。手を離せ」
舞「あっ、すみません」
手を引っ込めた私を、彼はまじまじと見下ろした。
???「どうやら俺は貴様に命を拾われたらしいな。寺の坊主と密通していた遊女だろうが、礼を言ってやる」