第1章 恋の始まり
舞「な、何するんですか...!?」
光秀「緊張を解いてやろうと思ってな」
舞「逆効果です...!」
光秀「それは失礼」
微笑を崩さず、光秀さんは何事もなかったように先へ進む。
(からかったのかな...っ?何を考えてるのか全然わからないよ)
警戒心を二割増しにし、距離を置いて光秀さんのあとをついて行き...
奥の部屋の前で足を止めると、絢爛豪華な襖が開け放たれた。
信長「遅い、舞」
舞「っ...すみません」
上座にどっしりと腰を下ろしているのは、織田信長...
その両脇に居並ぶのは、豊臣秀吉、石田三成、明智光秀、徳川家康、そして...
伊達政宗の姿もあった。
(歴史上の偉人が一堂に介してる...。ありえない光景だ)
信長「なにを呆けている?そばへ来い」
舞「はい...」
怖気づきそうになるのを堪え、信長様の前へ進み出て正座する。
信長「今後、貴様はこの城に住み俺に仕えろ」
舞「それは......お断りしたはずです」
信長「貴様の意思など聞いていない。返事は『はい』だけで良い」
(こんな冷たい目をしてる人、見たことない...)
逃げ出せば後でどんな目に遭うかわからない...そう思ってぞくりとする。
(佐助くんに言われた通り、三ヶ月間はここにいよう)
舞「わかりました。ですが、具体的には何をすればいいんですか...?」
信長「何も」
舞「え......、......!?」
信長様の長い指先が私の手首を掴み、引き寄せた。
信長「俺のそばにいろ。貴様は、それだけで良い」
低い声が甘く耳をくすぐり、とくっと鼓動が跳ねる。けれど...
信長「貴様をそばに置くのは、天下統一を成し遂げる験担ぎ(げんかつぎ)だ」
舞「ただのお守り代わりってことですか...?」
信長「そうだ。案ずるな、表向きはどこぞの姫として扱ってやる。
化粧(けわい)でも花札でも貝合わせでも、好きなことをしていろ」
(働かずに遊んでろってこと...?)
舞「そんなの困ります!こんな時にじっとしてたらおかしくなりそう...」
信長「は......?」
政宗「舞の気持ちはよくわかる。おれもそういうタチだしな」