第1章 恋の始まり
(降ろしてって言ってるのに!)
馬が勢いよく駆け出し、私はとっさに政宗さんの甲冑にすがりついた。
秀吉「おい、政宗。落とすなよ」
政宗「当然だ。しがみついてろ、舞」
舞「どういうこと!?」
秀吉「信長様は先に出発なさった。お前を連れてこいとの命だ」
馬を並べて走らせながら、不本意そうに秀吉さんが眉根を寄せる。
政宗「少し飛ばす。振り落とされるなよ」
舞「え、待って、やだ!!どこにいくつもりなの!?」
抵抗も空しく馬はスピードを上げ、夜通し休まず駆け続け...
(ここは......)
政宗「着いたぞ、舞。織田軍のひざ元......安土城だ」
(本物の、安土城......!?)
秀吉「舞、その寝ぼけた顔で信長様の御前に出るなよ」
舞「っ...そもそも私、信長様のところに行くなんて言ってない」
政宗「起き抜けから威勢が良いな」
耳元でからかうような声がして、はっとする。
(政宗さんに抱きかかえられたままだった...!)
舞「とにかく降ろして...っ」
政宗「断る。お前は抱き心地が良い」
舞「な、何言ってるの...!?」
秀吉「政宗、そんなナリでも信長様が見染めた女だ。手は出すな」
政宗「関係あるか?俺はこいつが気に入った。下剋上が世の理(ことわり)だ。戦も、女もな」
舞「え...っ」
野生の獣が獲物を狙っているような目に、魅入られそうになった時...
町娘たち「秀吉様!お帰りなさいませ」
(ん...?)
黄色い大歓声が聞こえてきて、はっと視線を前へと向ける。
町娘1「早くこちらへ!秀吉様」
町娘2「政宗様は今日も麗しくていらっしゃるわ...!」
町娘らしき女性たちが門前の道に列をなし、笑顔で手を振っていた。
政宗「毎度毎度、賑やかな出迎えだな、秀吉。あの中の何人泣かせた?」
秀吉「そんな真似するかよ」
肩をすくめて馬から飛び降り、秀吉さんは女性たちの群れへ向かう。
秀吉「わざわざ出迎えなくていいって言ってるだろ。家の仕事大丈夫なのか?」
町娘1「秀吉様のためにさっさと片付けてきたに決まってるでしょ?」
町娘2「しばらくはお城でゆっくりなさるのよね?いつならお会いできる?」