第3章 猫のきもち
『はーちゃんは将来何になるの?』
『長太郎のお嫁さんだよ。』
『ほんとに!?じゃあ僕たくさん働いてはーちゃんを世界一のお嫁さんにするね!』
〜♪
着信メロディで飛び起きた
懐かしい夢と少しだけ高鳴っている心臓を鎮めて電話に出る
『もしもし?はーちゃん?俺。もうすぐつくからうちに来て待ってて!』
『りょーかい。気をつけてね。』
『うん!』
走っているのか少しだけ息が荒れた声
いつも電話は私から切る
切られるのが少しだけ怖いから
寂しくならないための簡単な方法
すぐ近くにある長太郎の家を尋ねると
見知った顔の使用人が部屋まで案内してくれた
懐かしい匂い
昔はもっと頻繁に互いの家を行き来していたけど
最近は全然だ
どこに座っていいかも見当がつかなかった
『はーちゃん!ごめんね。ただいま。』
『おかえり。』
『なんで立ってるの?座ってよ。』
笑いながら手を引かれソファに座らされる
『今、お茶持ってきてくれるから。』
目の前でシャツを脱いでセーターに着替えはじめるのに赤面して顔を逸らしてしまった
なぜ気づかないんだろうこの人は
『長太郎!目の前で着替えないで!』
怒ろうと思ったのに緊張で声が上ずってしまった
『あ!ごめん!なんかはーちゃんの前だと油断しちゃって。』
油断?
油断ってなんなんだろう
意味がわからない
もう
この人は
本当に
『わたしってなんなんだ。』
あ、声に出てしまった
『え…?』
『え…?』
『はーちゃん…。なんで?ごめん俺!目の前で着替えてごめんね。泣かしてごめんね。』
『あ…。ぁれ…。』
『いっつも迷惑かけてるのに泣かしたりして俺本当最低だ。』
泣いてるなんて気がつかなかった
長太郎は必死で私の涙を拭ってるし
自分で自分の現状についていけてない
なんだか不思議な状況で
『長太郎…。好き。』
私自身ちょっとネジが飛んでしまってるみたいだった