第7章 波乱
「俺、男子が桃っち目当てで瑠衣っちに近づいてたっていう噂聞いちゃって…それで心配で」
「ああ…それでそんな話したんだ」
「余計なお世話かもしれないっスけど、俺ほっとけなくて…!」
「ねえ、黄瀬」
優しく呼びかけられて顔を上げた。
俺が恐らく深刻そうな顔をしてるってのに、瑠衣っちは穏やかそうな顔をして微笑んでいた。
「さつきって可愛いよね」
「へ…?」
「女の私から見てもすごい可愛い。人懐っこいし明るいし、面倒見も良いし?私が男だったら彼氏になりたいなー」
「瑠衣っち…?急にどうしたんスか…」
俺が分からないといった顔で見つめると、瑠衣っちは少し悲しそうに笑った。
「…私、気づいてたの。さつき目当ての人がいるってこと」
「ッ……!」
「…でもね、それに気づいても別に悲しくなかった!」
「瑠衣っち…」
「その人達よりさつきの方がずっと大切だったし、すっごい仲が良かったわけでもないし!」
「瑠衣っち」
「私は薄情だからさ、絶対に失いたくない人ってそんなにいないんだ。だから別に…」
「瑠衣!」
大きな声で名前を叫んだら、瑠衣っちはビクッと肩を震わせ、喋るのを止めた。
その瞬間、俺は瑠衣っちを抱き寄せた。
「強がらなくていいんスよ…。こんなつらそうな瑠衣っち、俺見てらんないッスよ…!」
「……」
瑠衣っちは暫く俺の腕の中で大人しくしていたけど、やがてそっと俺を押し離した。
「見てられないなら見ないで…。私、本当に気にしてないの」
瑠衣っちは何の感情も読み取れないような表情を浮かべていた。
「私の大事な人はみんな、私の周りにちゃんといるから」
そう言い笑うと、瑠衣っちは屋上から去っていった。
もしかしたら、本当に辛くなんか無かったのかもしれない。
俺のしてることは、ただのお節介だったんスかね…。