第17章 【番外編】マツノトクエスト 第十六章
無言で俯くカラ松が部屋に入り、これまた無言でベットに腰掛ける。
「あ、あ~……カラ松……その、元気出してよ」
「………」
「あ! あ!! そうえいばここのお風呂ね! ちょっと有名な温泉が流れてるらしいから癒されるよきっと」
「………」
チラリとだけ私を見てまた項垂れるカラ松。
トド松はずっと呆れた顔のまま。
「あ~っ……ど、どうする? これから皆でどっか行く?」
「………」
しかし返事が全く返ってこない。
「ちょっと! 黙ってないで何か言ってよカラ松! 心配してあげてんのにっ……さすがに新婚だなんてわかんないし……っ」
心配していたのだが、私もあまり気が長い方ではない。
我慢できずにカラ松に向かって声を張り上げてしまうと、上を向いたカラ松の目は真っ赤でうるると涙を流しそうになっている。
「━━━━━━っぐ……新婚だったなんてえぇええぇ」
我慢できず溢れてきた涙を零しベットに突っ伏すカラ松。
「ほらね、どうせすぐフラれるのがオチって言ったでしょ? ぼくの言う事聞かないからぁ」
「うぐっ、うっ……振られてないっ!」
「いやフラれたでしょ? さすがに人妻に手ぇだそうなんて考えてないよね? 殺されるよ? 夢だけど夢じゃなかったじゃすまないよ?」
「ヤメテトド松、笑っちゃう」
ぐずぐずと涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら号泣するカラ松をよそにそんな会話をしている場合ではない。
ほら、号泣しつつもチラチラこっち見てるし。
「あー……カラ松? とりあえず顔拭いて……あ、ハンカチないや、そのへんので適当に拭いて……」
「え……」
私がハンカチなど常備しているわけがなかった。
とりあえずこのままだと話が進まないからどうにか進めたいんだけど、泣いてるしなぁ、どうしようかなぁ。
あ、もういっそ「ほら、泣くのはおやめ」とか聖母っぽく近づいてブッチューしちまえばいいのか?
いや、落ち着け。
失恋したばかりの人間に漬け込む悪い女に成り下がる訳にはいかないんじゃないの?