第1章 出逢い
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、ロナルドだった。
「俺がクロエちゃんのことを放って置けない理由ってのは、正直言うともう一つあってさ」
私は下に落としていた視線をロナルドに向ける。
「さっき、今ロンドンで事件が起きてるって言ったろ?」
「はい、言ってましたね」
「それなんだけど、はっきり言うと連続殺人のことなんだよね」
連続殺人。
この言葉を聞いた瞬間から、動悸が激しくなった。
「しかも、女ばっかり狙われてる……らしい。らしいってのは、俺らにとってもちょっと異例なことが多くてさ。そんな中に女の子を、しかも記憶飛んじゃってる子を置いては来られないっしょ。残業の元になったらマジ勘弁だからね」
動悸に加えて、頭に割れるような痛みを感じた。
「現場ってのが、いつも俺の管轄外みたいだから、とりあえず俺といれば安全だろうなと思ったし」
更に、吐き気までもが襲ってきた。
「何よりここにいれば、まず命は保証できるからさ。まぁ、違う意味での危険はあるけれどね」
呼吸が乱れ、座っていられなくなった私は、胸を押さえ、膝から床に崩れ落ちた。
「クロエちゃん? クロエちゃん、どうした?」
人が死に際に見ると言われる走馬灯のような映像が、一気に頭の中に流れ込んできた。
家族の顔、自分の部屋の中、家族と行った旅行先、ある日の新聞記事、一緒に住んでいた伯母夫婦の顔、そして、大量の血。
「大丈夫か、クロエちゃん」
ロナルドの声で意識が現実に戻った私は、これまでの記憶を全て思い出していた。
「今、いつですか」
「は?」
「何年の何月ですか」
「えっと、1888年10月だけど」
「どうしよう」
「何が」
「本当に……来てしまったのね」
ベッドに座り直した私は、再び口を開いた。
「私の話、聞いてもらえますか」
頷くロナルドに、一つずつ説明していくことにした。