第9章 青い霧
翌日、自然に目を覚ました。窓もなく、時刻がわからない。
起き上がり、出来る限りの身支度を終え、ベッドに腰掛けた。
少しして、扉を叩く音がした直後、解錠され扉が開いた。
ウィリアムがパンを乗せた皿を持って入って来る。
「朝食です。食事を終えたらすぐにお話を聞かせて頂きます」
「……食欲ありません」
「そうですか。では、食事を省略して、早速聞かせてもらいましょう」
皿を片付けて戻って来たウィリアムは、ベッドに座る私の前に立った。
「クロエさん。まず、貴方はどこから来たのですか」
下を向いて黙っていると、ウィリアムは私に近付き、私の頭を掴んで上を向かせた。
「昨夜、私が言ったことを覚えていますか」
ウィリアムは私を見降ろして言った。
「手段は選びませんと、そう言ったのですが」
そしてそのまま私をベッドに押し倒した。
「しかし命を取るようなことは致しません。リストに無い人間を殺すことは出来ませんので。但し、死なない程度に痛い目を見る可能性があることは念頭に置いて頂きたい」
ウィリアムは私に跨った状態になり、私の顔を抑えた。
「もう一度聞きます。貴方はどこから来たのですか」
私は硬直したまま、黙っていた。
「では、質問を変えます。ロナルド・ノックスとは、どこで出会いましたか」
この質問にも答えなかった。
「やれやれ。三つ目の質問です。貴方、昨夜のグレル・サトクリフとの会話の中で妙なことを仰っていましたが、本当にそれ以上は何も知らないのですか」
「妙なこと……?」
「はい。何のことだか、わかりませんか」
グレルとの会話とは、あの話だろうか。
「では、少し内容を変えて、はっきり聞きます。貴方は、ロナルド・ノックスとキスをしましたか」
私はウィリアムから無意識に目を逸らした。
すると、顔を抑えている手に力を入れられ、彼の目を見るように促された。
「貴方は、男女の性の交流での最高到達点をキスだと答えていた。ならば、それを彼としたのかどうかで、貴方にとって彼がどのような存在なのかがわかると思ったのですが」
随分と直接的で、しかし妙な具合に曲がった質問だと思った。
ウィリアムが何を考えてこのようなことを聞くのか理解出来ない。
「本当にどの質問にも答えないつもりですか」
今度は、目を瞑った。
「わかりました。では」