• テキストサイズ

【黒執事】スノードロップ【死神・裏】

第7章 存在価値と愛


私はロナルドと共に、私の家の前にいた。
幼少から10年程を過ごした家。
奥底にしまい込んだ思い出が詰まっている家。
……忌まわしい記憶を閉じ込めた家。

ロナルドが合図をすると、少ししてから扉が開いた。
私は怖くなって、ロナルドの影に隠れて目を伏せてしまった。

女の声が聞こえる。この声は。


ーー母さん……。


当時の感情が蘇るのを必死に堪えた。
ロナルドが、“私の母”と話をしている。
内容は頭に入ってこない。
母は一度、家の中に戻っていったようだ。
私の様子を見て、ロナルドが声を掛けてくる。

「クロエ」

いつもの優しい声が聞こえる。
だがそれに応える余裕がない。

「クロエ、さっきいた辺りに戻ってな」
「……でも」
「でもじゃない」

私は首を横に振った。

「これから家にいる人達の顔と名前を確認する。ここにいる全員と、顔を合わせる余裕なんて無いだろ」

腹部から胸に熱いものが上がってきた。
再び扉が開く音が聞こえ、どうしようもなく怖くなった私は、気付いたときには駆け出していた。

路地に駆け込んだところで、胃にあったものを吐き出した。
ロナルドにあれだけのことを言っておきながら、自分の情けなさに嫌気がさした。
彼は初めから私がこうなるとわかっていたのだろう。
それでも、私の意思を尊重してくれた。
彼の優しさと、様々な記憶が蘇ってくる恐怖に、涙が溢れた。
私はその場にへたり込んでしまった。

何分が経過しただろうか。
放心状態で座り込んでいる私の前に、見慣れた白い紐靴が現れた。
今、一番傍にいて欲しい人が目の前にいる。なのに、私は動けなかった。
彼はしゃがんで、私の顔を覗き込んだ。
その顔は、すごく哀しげに見えた。
泣きはらした顔を見られたくないのに、手で顔を覆うことも出来ない。
今、私は一体どんな表情をしているのだろう。

「クロエ……」

彼が呼んでいる。
今、私が一番聴きたい声で。

「ごめん……」

何故謝っているのだろう。

「俺は、本当に……無力だ」

どういう意味? と、いつも話すみたいに聞き返したい。

ロナルドは、私を力一杯抱きしめた。
/ 80ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp