第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 陽葵ちゃん … 綺麗 」
「 次は仕事じゃない時に着れたら良いなあ 」
「 黒尾が意外にカッコイイんだよな── 」
木兎くんは不服そうに口を尖らせながら言う
彼はやっぱり背が高くてスタイルが良いから
何を着せても着こなしてしまうんだと思うし
髪の毛だっていつもの変な鶏冠頭じゃなくて
綺麗にストレートに下ろしてありサラサラだ
確かにそう言われてみればいつもよりは良い
「 黒尾!お前聞いてんの?! 」
「 ああ … すまん、何だよ 」
彼はさっきからボーッとしていて上の空だ
どうかしたのだろうかとい気にはなったが
疲れたのだろうと黒尾さんから視線を外した
このまま陽葵ちゃんの黒尾さんに対する恋が
上手くいけばいいななんて勝手に思っていた
黒尾さんは気に入らないし好きじゃないけど
陽葵ちゃんは優しくて本当に可愛いから好き
だから彼女には幸せになってもらいたいのだ
そして私もいつか誰かに恋をして幸せになる
「 こんなに可愛くなっちゃって。
早速 及川さんのモノにでもなっちゃう? 」
及川さんが私の髪の毛を優しく触りながら
テーブルに頬杖をついたまま微笑んでいる
そんな彼の横から手が勢いよく飛んできて
及川さんの頭はバシッと強く叩かれていた
「 クソカワのモノなんかになるかよ 」
「 岩ちゃん!痛いってば
また俺の顔に激しく嫉妬しちゃって! 」
「 美雨がお前みたいな奴選ぶかよ 」
相変わらずこの2人の言い合いは面白いのだ
ベテラン漫才師の漫才を見ている気分になる
みんなは慣れている光景なのかスルー気味だ
「 じゃあ私はそろそろ部屋に帰りますね 」
私が席を立ち上がりながらそうやって言うと
今まで私に対して何の声も掛けてこなかった
黒尾さんがようやく私に向かって声を掛けた
「 おい、チビすけ
着替えた後でいいから俺の部屋まで来い 」
( ゲッ … ) 「 はい … 」
「 黒尾!お前なあ──!
早速美雨を部屋に連れ込むのかよ、ずりい! 」
「 早い者勝ちなんですゥ
それにいやらしい事する訳じゃねぇし 」
黒尾さんの部屋に呼ばれるのは久しぶりだ
考えると少し憂鬱で私は小さくため息を吐く
彼の部屋に行く時は大概ろくな事が起きない
軽く会釈をして自分の部屋へと歩いて行った