第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
黒尾さんの部屋を出て廊下を歩いていたら
偶然 部屋から出て来た赤葦さんと出会した
こんな時間まで起きてるのかと思いながら
彼に軽く会釈をして部屋に戻ろうとすると
赤葦さんは微笑を浮かべながら私に言った
「 ご盛んなんだね 」
「 そんなんじゃないですから … 」
「 そんな事ないでしょ?
喘ぎ声がこちらまで聞こえてたくらいだし 」
えっ … この家の部屋の壁って薄いのかな?
それとも私の喘ぎ声が大きすぎるのかな?
赤葦さんの部屋まで聞こえているという事は
月島くんにも聞かれているかもしれない?!
そう思うと急に恥ずかしくなってきてしまう
「 慣れてるから大丈夫
この家じゃこんな事は日常茶飯事だからね 」
「 赤葦さんもするんですか?その … 」
「 俺としたいの? 」
赤葦さんは少しだけ口角を上げ微笑んで
私の方へと静かに近づきながらそう言った
別にしたいとかそう言うのじゃなくて …
この人は何でそんな風に捉えちゃうかな?
「 そんなんじゃ … 」
「 へえ ──
そんなに顔真っ赤にしてるのに?
じゃあ今度 俺とも試してみようか 」
「 はい?!何でそんな事に … 」
「 楽しみにしてるね、美雨 」
顔を真っ赤にした私を残し下へ降りて行った
赤葦さんはきっとからかっているのだろう
喘ぎ声が五月蝿かったから仕返ししてるのか
にしても近くで見ると本当に端整な顔だった
和製のお人形さんみたいな雰囲気があって。
性格は冷めてそうな感じは見受けるけど …
掴み所がない簡単に言うとこんな感じの印象
私は項垂れながら自室へと戻って行った
初体験はもっとロマンチックにしたかったな
寝ている間に済んでいるなんて間抜けすぎる
まるで私の体を労わるように優しく抱かれて
お互い大好きだよなんて愛を囁き合いながら
甘くて痺れそうな時間が流れ行為が終われば
彼の腕枕で私は微睡みの中 静かに眠りにつく
これが私の理想の初体験のはずだったのに
現実はときたら愛を囁く事なんかはなくて
行為が終わったら帰れと言われてしまう私
理想は理想であり現実は甘くなんてないのだ
私は初めて自分のベッドで深い眠りについた