第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
激しい雨は暗闇の中でも白く見える
ふらふらと街から街へ彷徨い歩いていたが
雨に邪魔をされビルの一角で雨宿りしていた
と言うよりも力尽きて動けなくなったのだ
もう何日もまともに食事を摂っていなかった
胃袋が背中にくっ付くほどお腹が減っている
と言うのもある工場で働いていたのだが
人件費削減とかなんとかで突然クビになった
会社の社員寮に住んでいた私は追い出され
仕事と家を一気に両方失ってしまったのだ
両親は亡くなっていて私には帰る実家も無い
そして日頃不節制をした末に貯金だって無い
私は所謂ヲタクと呼ばれる分類の人間である
大好きな漫画を買う為だけに働いていたから
給料の殆どは自分の趣味に費やしていたのだ
自分に馬鹿野郎とでも言ってやりたいくらい
嗚呼、仕事も無いし住む家だって無い
無いものばっかりで生きる事にうんざりする
唯一持って来た荷物は服と下着くらいだった
もはや飢え死にするしか他に無い様に感じる
── この若さでホームレスなんて嫌だ!
かと言ってこの状況を変える手立てなんて
思いつくはずがなく深い溜息を吐いていた
「 この世の終わりみたいな顔してるねえ 」
ゆっくり顔を上げると王子様風のイケメンが
私の顔を覗き込みニコリと微笑んでいた
ふわふわの茶色い髪の毛から良い香りがする
アーモンドの様な形の大きな瞳に長い睫毛
全体的にバランスが良い整った凄く綺麗な顔
まるで漫画から飛び出してきたような
絵に描いた王子様が私に声を掛けている
「 ねえ、こんな所で何やってるの? 」
「 雨宿り … です … 」
実はお腹が空いて動けませんなんて
こんなイケメンを前にして言える筈がない
この場面で乙女を出してしまう自分が嫌 …
── グルルルッ
こんな時に限ってお腹が鳴ってしまう
乙女モードに切り替えたのは無意味だった
「 あれ?お腹空いてるんだ?! 」
「 数日間、ろくなもの食べていなくて … 」
「 とりあえずさ
女の子がこんな所なんかに居るのは危ない
ご飯食べさせてあげるから話は後で聞くよ 」
王子様は床に座る私の体をゆっくり引き上げ
ついておいでと手招きして前を歩き始めた
待て、幾らイケメンと言えど見知らぬ人だ
ホイホイついて行って危なくないのだろうか