第4章 ブロック④
「ねーねー聞いた?緑川、天童くんと別れて牛島くんと付き合うことになったらしいよ!」
そんな噂を聞いたのは、天童くんと体育館で久々に話したあの日から一週間経った日のことだった。
そうか……天童くんは自分の気持ちにケリがつけられたのかな。校舎内で天童くんをたまに見掛けることもあったけど、いつも通り友達とゲラゲラと騒いでいたり、男バレの子達と食堂でご飯食べてたり、一見元気そうだった。
所詮恋愛なんて本人たちにしか辛さも悲しさも分からない。どれほど相手を好きだったのかなんて、本人にしかその深さは分からない。
私が天童くんのこと好きだからこそ、天童くんの片思いにも気付いたのかもしれない。
それでもあの合宿の日。間違いなく天童くんの気持ちは不安定だった。だからこそ誰かと一緒に過ごして自分の気持ちを発散させたかったのかもしれない。
緑川と別れたからって、私は気持ちをすぐに伝える気にはなれなかった。もともとミステリアスな部分が多くて掴めない子だし、安易に彼に近付くのも怖かった。
もし、もし。
自分が白鳥沢学園を卒業するその日まで、天童くんのことが好きだったなら気持ちを最後に伝えてもいいかな―――。
それぐらいなら許されるかな。卒業する間際だったら天童くんに気まずい思いをさせなくて済むし。
それまではバレーに専念しよう。来年は私だって三年生だ。最後くらい全国に行って勝ちたい。授業中にそんなことばかり考えていたらいつの間にか授業は終わっていて、昼休みに突入した。友達に誘われて食堂へ向かって歩いていく。
「…あの、蒼井先輩」
廊下で急に『先輩』なんて呼ばれるから。私はつい天童くんの姿を期待してしまった。振り返るとなんとなく顔は知っている男バレの一年生。名前が思い出せないけど整った顔は女バレの中でも人気だった気がする。
「いま、ちょっとだけいいですか?」
真っ赤にした顔と意志を込めた目に見つめられ、私はコクンと頷くしかなかった。「ここじゃアレなんで」という彼に連れられて、あまり人が来ない中庭まで一緒に歩いていく。
……友達にあとでLINEをしておかなきゃ。彼の後ろを歩いているあいだ、落ち着かない気持ちを誤魔化すために、送るLINEの内容を考え続けた。