第2章 遊戯王GX 消えゆく姿/丸藤亮 (非恋)
──消えゆく姿…
この世界へ来てから何度も魘されて見る夢は、私の"想い人"、丸藤亮の消えゆく姿だ。
アカデミーでは“カイザー”と呼ばれていた彼。
近くもなく、遠くもない“友達”という距離でいつも彼を想っていた私。
彼がプロに成り、出て行ってから数ヶ月…
アカデミーでは、学校全体を巻き込んだ恐ろしい現象が起こり…
今、私は異世界にいる。
《今日も魘されていたわね?》
寄り添い話しかけてきたのは、風属性デッキの精霊"ハーピークイーン"。
《壱伽…大丈夫、カ?》
そして、不安げに目の前の宙を浮き尻尾を丸くしているのは、ドラゴンデッキの相棒"アームドドラゴンLv3"。
彼らは私の壱と弐のデッキのエースカードだ。
──そう。
この世界は、デュエルモンスター達の世界。
元々カードの精霊が見えていた私は彼らと会話をすることは容易かったが…
彼らの姿が半透明だったのがこの世界では、リアルに存在し、触れることができる。
私は額の汗を袖で拭うと、膝に降りた小さなドラゴンを抱きしめる。
「大丈夫。平気よ。心配かけてごめんね。」
《無理、してない?》
ドラゴンが肩に顎を置き、頬にすり寄ってくるので、私はあやすように背を撫でた。
「してないわ。だからアナタはお休み?」
優しく促せば、ドラゴンは渋々姿をカードへと戻し、デッキへと戻っていった。
《また…“彼”の夢?》
その場に残ったクイーンは、水で絞ったタオルを渡し、何も言わない私を覗き込みむ。
小さく頷けば、
《夢は暗示を表すわ。壱伽、貴女は予知夢を見ているのかも。》
「もし、その通りなら…私はどうしたらいいのかしら…」
《…後悔しない行動をとるべきだわ。》
「……後悔、か。」
冷たいタオルで額を冷やし、目を閉じる。
浮かぶは、彼の去りゆく背中だけ。
遠く、暗闇に溶けゆく姿に、手が震え…
唇を噛み締めた。