第2章 遊戯王GX 消えゆく姿/丸藤亮 (非恋)
<翔side>
お兄さんとヨハンのバトルが終わった。
ヨハンは大きなダメージを受けると、その場を立ち去っていった。
お兄さんは蔓から解き放たれた壱伽さんを受け止めるけど…
立っている事もままならず、力無く膝を付いた。
「Σお兄さん!!壱伽さん!!」
駆け寄り、抱えられている壱伽さんの様子を窺う。
中々目覚めない彼女に僕は"まさか"と息を飲む。
この世界に来てから僕は、仲間が犠牲になって消えるのを何人も見てきた。
もぅ、誰かが消える所なんて見たくないのに!!
「…大丈夫だ。壱伽は直に目を覚ます。」
お兄さんは壱伽さんの頬を撫でると、一瞬だったけど昔のような優しい笑みを浮かべた。
「翔、…頼みがある。」
壱伽さんを地面にゆっくり寝かせると、お兄さんは僕に向き直る。
「壱伽が目覚めたら…これを渡してくれ。」
お兄さんが差し出したのは、自分の魂とも言えるデッキ。
「コレを…!?」
"どうして?"
そぅ言葉にしようとした所で気づく。
偉大だった兄の姿は透けていて、足元から光の粒子へと変わってきていた。
消えてしまう…ッ!!
お兄さんの瞳は揺らぐ事無く僕を射抜く。
覚悟は既にできているのだ、と。
「"いつも傍で見守っている"そぅ伝えてくれ。」
僕は涙が止まらなかった。
どうして…
どうして、こんなに立派で優しい人がいなくなってしまうんだろ。
どうして…愛し合う2人がこんな悲しい別れ方をしなくちゃいけないんだろ。
どうしてもっと…
自分は強くなれないんだろ…
────…ッ!!
駄目だ!!
こんな弱い気持ちじゃ!
お兄さんは"命"を懸けて闘ったんだ!!
そして僕に託していくんだぞ!?
そんなことでどうするんだ!!丸藤翔!!
しっかりするんだ!!
僕は涙を雑に拭うと、"最後"に恥じないよう真っ直ぐお兄さんを見つめ、デッキを受け取った。
「…解りました。」
お兄さんは…横たわる壱伽さんを見つめると"愛している"と伝えるように唇にキスをした。
「僕は忘れません。貴男という兄がいた事を…」
そしていつか貴男のように強い男になってみせます。
いつか…