第10章 別れの曲
「智…」
「ん?」
腕の中にいる翔が俺を見上げる。
「……抱いて…」
少しピンクに染まった頬。
「抱いてるだろ?」
「じゃなくて…」
恥ずかしそうにモジモジしてる翔…お前が何を望んでるかは百も承知。
でも、翔からのお誘いなんて滅多にない。いや、滅多にない所じゃなくて初めてのこと。
大体は誘われる前に、俺が襲うしな。
こんな貴重なシチュエーション、しっかり味わわなけりゃ勿体ない。
「なに?ハッキリ言えよ。
俺、バカだからちゃんと言って貰わないとわかんない」
「そんなことないでしょっ、わかってるクセにっ」
「わっかりませーん」
「意地悪…」
少し口を尖らせ拗ねた顔…
本当は今すぐにでも、その唇にキスしたい。でも…
「俺、意地悪だもん…
ほれ、どうして欲しいのか言えよ。
それか態度で見せてくれてもいいぞ?」
ニヤニヤ顔で追い詰めると、翔は不意に起き上がり背中を向けた。
ありゃ~、からかいすぎた?
「しょ~お?翔ちゃ~ん」
呼んでも返事もしてくれない。
ヤバっ、マジで怒らせたか…折角翔が誘ってくれたのに失敗した。
「翔…ごめん、謝るからこっち向いて?」
そう言った瞬間、翔の肩からパジャマがするりと滑り落ちた…
部屋の中に射し込む僅かな月明かり。
それなのに、何故か翔の躰は月の光にすっぽりと包まれ、煌々と輝いていた。
顔だけ振り返り、俺を捉えたその瞳は既に欲情に染まっていて…
「さ、とし…俺のこと、愛してくれる?」
キスでもしてくれればめっけもんだと思ってたのに…
俺は返事をするよりも早く、翔の事をベッドに沈めた。
翔は悩み苦しんだのだから、こんなことを考えるのは不謹慎なのかもしれない。
それでも、俺と出逢えなかった人生を想像しただけで泣いてしまった翔を見て思ったんだ。
俺と出逢えたこの人生が、翔にとって最良の選択肢であって欲しいと…
「翔…愛してるよ…」
幾度となく翔の最奥に熱の塊を打ち込むと、それに応えるように翔の躰の熱が増す…
「あぁっ!さと、しっ…あ、いしてるっ…」
互いの熱が尽きるまで、今夜は一晩中愛し合おうな。