• テキストサイズ

きみに届けるセレナーデ 《気象系BL》

第10章 別れの曲


〈翔サイド〉

松岡さんと再会した日から、松岡さんは頻繁に店に姿を見せた。

「いらっしゃい」

「おう、今日もいい演奏してたな。
すぐにでもピアニストとして戻れるんじゃないか?」

「この仕事だって、ピアニストとしての仕事だよ」

「それはそうだけど、もっと大きな舞台でも十分通用するんじゃないかって話だよ」

「いいの。今の俺には、ここが最高のステージなんだから」

「もったいねぇなぁ…そんな腕持ってんのに」

「ありがと」

「それよりまだ帰る気にならないか?」

あれから、ひとつき以上過ぎた。
でも俺の心は、まだ決心がつかない。

「お袋さん、首長くして待ってるぞ?」

「ごめんなさい…」

「謝る必要はないさ…居場所がわかっただけでも良かったし」

そう話をしている時に、店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

ニノさんの声が聞こえた直後、聞き慣れた懐かしい声が聞こえた。

「しょ、う…」

その声に顔を向けると、ドアの前に立ち尽くす母さんの姿…

「か、あさん…」

母さんはつかつかと俺の前まで歩いてくると、俺のことをギュっと抱きしめた。

「よか、た…元気そうで…」

小さく震える母さんの肩…

「ごめんなさい…」

自然と謝罪の言葉が出た。

頭をあげた母さんの顔は涙で濡れていた。

「いいの、あなたさえ無事なら…
私こそ、ごめんなさいね…
待とうと思ったの、あなたから帰って来てくれるのを…でも、待てなかった…」

震える母さんの手が優しく俺の頬に触れた。
/ 243ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp