第10章 別れの曲
ポロポロと涙を流し始めた翔…
そっか、お前が考えていたことは、俺と出逢えてなかったら、って事だったのか。
もう出逢ってるんだからそんなこと考えなくてもいいのに…
そんなこと考えて怖くなったから、ずっと甘えてたんだな。
「バカだなぁ…俺たちはもう出逢ってるんだから、そんなこと考える必要ないのに…」
頬を伝う涙を拭きながら、可愛すぎる理由に顔がにやけてしまう。
「バカだもん。俺、智のことになるとバカになっちゃうんだもん」
拗ねながら抱きついてくる翔が愛おしくて仕方ない。
「うん。俺も、お前のことになるとバカになる」
翔を抱きしめる腕に力が入る。
「さと、し…くる、し…」
翔の手が俺の背中を叩く。力を緩めてやると大きく息を吸った。
「もぉ!智の馬鹿力っ」
「ははっ、だから言っただろ?バカになるって」
「そんなとこバカにならないでよ」
「それくらいお前のこと離したくないんだよ。ずっと、ずーっと抱きしめていたいの」
「智…」
翔の瞳がまた涙で濡れる。
「こんなバカ、嫌か?」
笑顔でそう聞くと、翔はフルフルと首を振った。
「嫌じゃないっ…俺もずっと…ずーっと智に抱かれていたいっ」
「うん…」
ぎゅっと抱きついてきた翔を、今度は宝物を扱うように優しく抱きしめ、その髪を撫でた。
翔と出逢わなかったかもしれない過去…
翔と母親の思いのすれ違いが無ければ確かに存在したかもしれない。
でも、こうしてふたりは巡り会えたんだ。
そんな有りもしない過去を恐れて泣く必要なんかないんだよ?