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きみに届けるセレナーデ 《気象系BL》

第10章 別れの曲


〈智サイド〉

家に帰って来てからも、度々動きが止まる翔。

流石にピアノの演奏中はなかったが、店でもちょいちょい考え込んでいるようだった。

そりゃそうだよな…
ずっと親からの愛情を感じられず、家を飛び出したのに、実は誰よりも愛されてたなんて言われてもな…

それでも母親が翔のことを愛していたのなら
一度会って、ちゃんと話し合うべきだと思う。
翔が躊躇う気持ちはわかるが、その方が翔の為でもあるんだ。

「翔…大丈夫か?」

「えっ?」

俺に声を掛けられ、驚いたように顔をあげた。

「手、止まったまんまだよ?」

「あ…」

いつもだったら、旨そうにあっという間に平らげるのに
今日は俺が食べ終わっても、まだ半分近く残ってる。

「ごめん…すぐに食べるから」

「慌てなくていいよ…
なんなら俺が食べさせてやろうか?」

「ん…」

冗談で言ったつもりなのに、まさか頷かれるとは。
それだけショックを受けてるってことか?

翔の口に食べ物を運ぶとモグモグといつもの様に食べ進める。
食欲がないわけではないらしい。

「旨いか?」

「うん…美味しい…」

嘘のない笑顔で答えてくれる様子を見て、少しほっとした。

「そっか、良かった」

翔は今、何を思っているのだろう…家を出た事を後悔している?

飛び出していなければ、松岡さんが言ったように、今頃ピアニストになれていたかもしれない。

もしそうなっていれば、今の生活とは大きくかけ離れた華々しい世界で翔は生きていたんだ。
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