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きみに届けるセレナーデ 《気象系BL》

第10章 別れの曲


「お前がどう思おうとこれが真実だよ…」

松岡さんの顔が哀しそうに歪んだ。

「今更そんな…母さんは『お前の演奏には心がない』って言ったんだ…俺の心を無くしたのはあの人たちなのに。
俺がどんなに頑張ったって、母さんは誉めてくれなかった。
それなのに脩はちょっと頑張っただけで、笑顔で誉めちぎられて…
今までの俺の時間ってなんなの?って…
何の為に頑張って来たの?って…」

「お袋さんの中では、お前と脩じゃ元々の目標設定が違ったんだよ。
だからまだ目標を達成してないお前を、誉めてやれてなかった。
あんなに頑張ってたんだから、その事を言葉に出して認めてあげてればって。
『心がない』って言ったのは、なんでも押さえ込んでしまうお前に、もっと自分の心をさらけ出して欲しくて…演奏に『想い』を乗せて欲しくて、そうアドバイスしたつもりでいたんだと。
なのにお前が突然姿を消したから、伝え方を間違えたって泣いてたんだ。
そこまで翔を追い詰めていたのかって…
ちゃんと話し合えば良かった、何よりももっと前から翔の話を聞いてやれてればって…」

「嘘だっ!そんなの世間体を気にして、自分の保身の為に言ってるだけだ!
俺はあの人から、愛情を感じたことなんてない!」

「ほんとに?俺はお前のコンクールの時いつも応援に行ってたけど
お前が入賞したときは、お袋さん凄く喜んでくれてたぞ?」

「だから!それは自分の才能が評価されることが嬉しかっただけでっ!」

「違うよ…普段感情を表に出さないお前が、入賞したときはすげぇ嬉しそうに笑うから…
その笑顔を見ることが、お袋さんの喜びだったんだよ。だからこそ、お袋さんは必死に指導して、お前に賞を取らせたかったんだ。
誰よりもお前のことが可愛かったんだよ」

何もかも俺の勘違いだったって言うのか?
この数年間悩み続けていたのは、全部俺の勘違いだって…

「翔…」

智の呼ぶ声がする…智の方を向くと智の顔がボヤけて見えた。

「その癖だけは治らねぇなぁ…」

智の手が俺の頭を優しく撫でる。
 
「ひとりで静かに泣くなよ…」

「さ、とし…」

「家に帰ってお袋さんと話してこい」

「そんな必要ない。今の俺には、智が居ればいいんだから…」

「お袋さんも泣いてるぞ?
その涙を止められるのは、お前だけなんだよ?」
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