第10章 別れの曲
《翔サイド》
店に着くと調律をしているところを見ているニノさんがいた。
「おはようございます」
挨拶をしたあと、ニノさんが少し呆れた顔で智に言った。
「あまり束縛すると嫌われるよ?」
「なんで俺が一方的に嫌がられるテイで話してるんだよ。
だいたいな、翔が俺から離れないんだからな」
なんて言うから恥ずかしくなって…
「夜寝るときは智が抱きついてくるくせに」
って言い返したら、智は更に
「お前だって嬉しそうにしてるじゃねえか」
そりゃ確かに嬉しいけどさ…
「はいはい、どっちもどっちね
ふたりがそれでいいなら問題ないよ。
今、問題なのは、第三者の方がいるのに、ふたりが抱き合って寝てるのを大声で公表してることだと思うけど?」
「「あ!」」
そうだった…ここの常連さんたちは俺と智の仲を知ってる人もいるから、つい油断してた。
普通じゃない関係だもんな…知らない人にまで教える必要はないのに。
そう思って調律師さんの方を見ると、笑顔でこちらを振り返える…
その姿を見て心臓が止まるかと思った。
「ははっ、大丈夫ですよ。俺の知り合いにもそういった方はいますから」
「ま、つおか、さ…」
「え?あ、翔⁉…お前、なんでこんなとこに…」
松岡さんも信じられないモノを見た、という感じで俺を凝視した。
「なに?翔の知り合いなの?」
ニノさんが心配そうに俺の顔を覗きこんだ。
「は、い…よく、知ってる方、です」