第10章 別れの曲
翌日、いつもより少し遅めに店に行った。
店に入ると、ポーンポーンとピアノの音がする。
ピアノを叩くその人物から少し離れた所に、ニノが立っていた。
「おはようございます」
「はよ」
「おはよう。なに智も一緒に来たの?」
「悪いか…」
「別に悪くはないけど、たまには離れて行動してもいいんじゃないの?
あまり束縛すると嫌われるよ?」
「別に、束縛なんかしてねぇよ」
「そう?家でも仕事でも一緒で嫌がられないの?」
「なんで俺が一方的に嫌がられるテイで話してるんだよ。
だいたいな、翔の方が俺から離れないんだからな?」
「べっ、別に離れないとかじゃないじゃん!
ひとりだって平気だよっ」
「そうか?未だに子守唄ねだるときあるし
朝起きると、いつもべったりくっついて寝てるから
ひとりじゃ寝られないのかと思ってたよ」
「そんなことないよ!
夜ひとりで寝られないのは智だろ?いつも抱きついてくるくせに」
「は?お前だって嬉しそうにしてるじゃねえか」
「はいはい、どっちもどっち、ね…
ふたりがそれでいいなら、なにも問題ないよ。
今、問題なのは、第三者の方がいるのに、ふたりが抱き合って寝てるのを大声で公表してることだと思うけど?」
「「あっ!」」
そうだ、今日は調律師が来てるんだった。
「ははっ、大丈夫ですよ。俺の知り合いにもそういった方いますから」
調律師が笑いながらこちらを振り返ると、隣に立つ翔が息を呑むのがわかった。
「ま、つおか、さ…」
「え…あ、翔⁉…お前、なんでこんなとこに…」
翔の知り合いか?