第3章 Declaration
放課後、荷物を鞄に詰めていると轟くんが私の席にやってくる。
「綿世、帰るぞ」
「うん」
ここまでがいつの間にか定まったルーティン。
クラスの皆は最初こそ驚いていたが、今は慣れてきたのか落ち着いている。時々、峰田くんと上鳴くんの「俺も女子と帰りてぇー!」という声が聞こえるけど。
私は轟くんの後をついて歩く。浮いた話なんて無いし私も轟くんも互いに恋愛感情を持っている訳ではない。
でもかっこいいんだよなぁ。私が“普通”だったら恋に落ちていたかもしれない。
なんて、紅白の髪に、横顔に、見とれながらぼんやりと考えた。
「どした」
「え?なにが?」
「いや、なんか視線を感じた」
「あっごめんね…かっこいいよなーと思って見てた」
「……そうか」
眉を下げて笑うと轟くんは返事に困ったのかなんとも言えない顔をした。咄嗟に深い意味はないから気にしないでね、と付け足した。率直な感想を述べただけで、本当に深い意味はないのだ。触れないとはいえ私だって女子なわけで、綺麗な人には目を引かれる。
「退け!クソモブ!」
「わっ、と、ごっごめんなさい!」
ぼんやりしていたら同じクラスの怖い人、爆豪くんに後ろから吠えられた。慌てて廊下の端に寄ると、盛大な舌打ちが飛んでくる。
「死ね!!」
爆豪くんはいつもあの調子だ。今のはめちゃくちゃ機嫌悪そうだった。大方、また緑谷くんと何かあったんだろう。
轟くんは気にしていないのか、変わらない歩調で校舎を後にした。その後ろ姿を追いかけるとまた、胸が痛むのを感じた。彼には爆豪くんも、私も、見えていないのだろう。
私は痛みを紛らわすように轟くんに話しかけた。私がトラウマを抱えているように、轟くんも何か抱えているのだと思う。せめて、帰り道だけでも忘れさせてあげられたら…なんて烏滸がましいけれど、私に出来ることはそれくらいだから。
「轟くん、みて!雪だるま」
「なんだそれ」
「こうすると、お団子」
手のひらに生み出した丸い綿でクマ、ぶどう、峰田くん…と次々に造形する。
「泣く子も笑顔になる魔法だよ!」
「変わってないな」
小さく笑った轟くん。ほらね、凄いでしょって得意げに胸を張る。
「小学生ん時、授業中にそれやって怒られてたよな」
「よ、よく憶えてるね…」
今日もまた他愛ない話をして私達は帰路につく。気まずさはもう消えていた。