第3章 Declaration
爆豪くんが靄のヴィランを掴みながら実体がある事を雄弁する。どうやらワープゲートで己の実体部分を覆い隠しているらしい。さしずめワープゲートの鎧といったところか。
爆豪くんは粗雑な感じだけど、意外と冷静に考えて行動するところがある。
「ぐっ…なんだ…私の中で何か…」
「おい羊女!テメェ何した!」
靄のヴィランが辛そうに呻く。爆破によって燃えた綿が靄の中に入ってしまったのだろう。綿を構成するたんぱく質には硫黄が含まれており、燃えると独特な匂いを持つ亜硫酸ガスが発生するのだ。亜硫酸ガスの濃度が高まれば中毒を起こす事もある。
「あの量じゃ何ともないと思うけど、燃やす時は気をつけてね」
「テメェが気ぃつけろや!まあいい、こいつが弱るってんなら好都合だからなぁ!」
流石にガスを体内から排出するのは困難だろう。せいぜいワープゲートを開いておき暫く換気する…とか?取り押さえられている今の状況ではそれは難しそうだ。
「攻略された上に全員ほぼ無傷…すごいなぁ最近の子供は…」
手だらけのヴィランが傍観しながら話す。その表情は手に隠されて見えない。彼が「脳無」と呼んだ脳味噌ヴィランは半身が凍り割れているにも関わらず上体を起こして体勢を整える。
すると、割れた体の断面から新たな肉体が再生した。ぼこぼこと脈打つ赤い半身は次第に黒い皮膚を纏い遂には初見と変わらぬ見た目に戻る。
思わず眉をひそめると、ご親切にも手だらけのヴィランが脳無について解説してくれた。彼はオールマイトの攻撃に耐えられるよう作られたサンドバッグ人間。つまり、人造人間ってこと?ぞくりと鳥肌が立つ。そんな恐ろしい事をしているなんて。
「まずは出口の奪還だ、行け脳無」
手だらけのヴィランが指示した、直後、突風が巻き起こる。
何が起きたのか、何も見えなかった。脳無が、爆豪くんがいた場所にいる。しかし、爆豪くんは何故か私たちの横に移動していた。
「爆豪くんなんで!?」
「よ、避けたの!?かっちゃん凄い…!」
「違ェよ!黙れカス!」
どういうこと?敵に視線を移すとその奥にオールマイト先生が構えていた。オールマイト先生が爆豪くんを庇ったんだ。あの一瞬で…。