第10章 Infatuate
「何か悩んでるんだろ」
轟くんは私の頭の上でぽつりと言った。
「言い難いなら言わなくていい。ただ、お前が俺にしてくれたように…俺も力に…支えになれたらって思う」
あれこれ考えてたの気づかれてたんだ。
轟くんはもう十分力になってるよ。
存在が大きくなりすぎて受け止めきれないくらいだよ。
そんな気持ちをただ一言に乗せて
「ありがと」
と返した。悩みと言っても轟くんの事で。
まだ本人に話せるほどの勇気が蓄えられていないから。
「整理がついたら、話すね」
「ああ。無理はすんな」
「もーそればっかりだね」
轟くんの顔を見上げてくすくすと笑う。轟くんは神妙な面持ちのまま私を見下ろして首を傾げた。
「言っといてなんだが、支えになるってどうすりゃいいのかわかんねぇ。綿世は、どうして欲しい?」
そんな事言われても。私はどうして欲しいんだろう。
轟くんが穏やかに過ごせたらいいなと思ってるけどそういう事じゃない…よね。
うーん、と考えてやっと一つ答えを見つけた。
「もう少しだけ、このまま…というのは?」
「…わかった」
彼の胸に身を預け、目を閉じ、心音に耳を傾ける。
一定のリズム。まるで時を刻む秒針のよう。心臓の音で落ち着くなんて子供みたいかな。
温かくて安心できて、こうされるのが好きだ。きっと今オキシトシンが大量に分泌されているのだと思う。
幸せな気持ちになったり、ストレスを緩和したりする。主に人と触れ合う事で生まれるホルモンだって聞いた。
雄英に入ってからの私はきっとオキシトシンいっぱい出てるんだろうな。勿論辛いこともあったけれど、それ以上に優しい気持ちに沢山触れた。
轟くんとクラスの皆、先生や家族。
もう既にいろんな人達に支えられてる。
好きだとか友達だとかライバルだとか、そんなことで悩んでなんかいられないな。
応援してくれる人達がいる。
負けじと頑張ってる人達がいる。
私も負けられない。応援に応えたい。
与えられてばかりじゃなくて、与えられるようになりたい。
轟くんが好き。みんなが好き。大好きな人達が笑っていられる場所を、大好きな人達と作りたい。
その気持ちは例え異なる『好き』であっても変わらないんだ。
瞼の裏に一筋の光が見えた気がした。