第1章 エレベーターで
「あれ、もうこんな時間だ…」
つい最近、恋仲となったばかりの轟焦凍の自室で一緒に勉強をしていた風祭風林は、コチコチと静かに鳴る時計を見上げてポツリと呟いた。元来真面目な二人であるので色っぽい雰囲気になることもなく、黙々と得意な科目を教え、苦手な科目は教えられている内に既に3時間が経過していたらしい。
ヒーロー候補生の寮といえども年頃の娘が男子寮に長居するのも気が引けるのか、その呟きを皮切りに片付けを始める彼女を焦凍もノートから目を離して時計を見上げ、そして彼女に視線を移す。
「帰んのか…」
「うん、また明日お邪魔するよ」
「そうか、送る」
「ありがとー」
既に帰り支度を終えてしまった風林を待たせるわけにもいかず、スマートフォンだけをポケットに突っ込んだ焦凍は勉強をしていた残骸をそのままにして立ち上がり、さり気なく彼女の腰を抱くようにしてエスコートをしようとすれば、まだ気恥ずかしさが残るらしい風林にスルリと逃げられ、所在無げに揺れた己の手をジッと眺める。
「………」
「ふへへ、ごめん…なんだろう…私、恋愛向きじゃないねえ…ハズカシ」
「…そうか(かわいい…)」
「そこでその返しは可笑しくない!?」
「そうか…?」
「言葉同じやんけ!!!」
本人は姉御肌のつもりでいるらしいが、小柄な体格が災いをして雄英の元気印という言葉が似合うような少女が、自身の行動に照れて頬を桃色に染めている。小さく笑いながら後頭部を掻いて、忙しなく動く瞳に吸い寄せられる。
焦凍が心の中で呟いた言葉を少女が理解できる訳もなく、こちらの返答に2度同じような返しをする彼に、風林は関西人でもないのに思わず関西弁で突っ込むが、こちらを真っ直ぐと見つめるオッドアイの瞳にどきりと胸が高鳴り再び視線を逸らす。
「(うう…かっこよすぎる…なんだよ、私…メンクイだったのかよ…最悪じゃん……)
もー、ほら! グダってる内にもう20分も過ぎたよ!!帰るから!今度こそ!!!」
「ああ、送る」
「さっきもそれ聞いた!けど、ありがとね!」