第9章 光と影、そして闇
準々決勝。
スタートを合図に、終綴は後ろに飛び退いた。
長距離攻撃が可能な轟の個性を警戒しているらしい。
「なぁ、戦闘訓練のとき、俺は個性を使えなかった…なのに何で、今はその個性を使わねえんだ?」
轟の問いかけには、終綴は笑みを返すだけ。
「相澤先生も言ってたが…おまえ、手加減してそれなのか?」
「はは、何それ…緑谷の真似のつもり?」
「誤魔化すなよ!」
苛立たしげに轟は叫び、氷塊を作った。
ロボットにしたように、そのまま終綴も行動不能になるかと思われたが────
「うっお、危なっ!!」
一瞬早く終綴が宙に飛び上がり、鋭い蹴りを放った。
バァァァァン
ぱりーん、などではなく、建造物が倒壊するかのような音をたてながら、氷は散り散りになっていく。
『ここで依田!お得意の蹴り!!
シヴィー!!!これほんとに高校生かよ!!!!!?パワーやべぇな!!!』
『ずっとそれ言ってるだろ』
そんな実況も、本人達2人には聞こえない。
それほどまでに轟は集中しており、終綴もまた、頭の中が忙しかったのだ。
──え、これやばくない??
──どうしよう!?
──…なんか怒ってない!?緑谷とか爆豪の病気でも移った!?
──あ、でもあいつの個性まだ使ってない…!!
着地したところを、再び凍らさんと狙われる。
行動不能にするにはと、脚を狙っているのが判った。
──力、借りるよ!
思い切り右腕を後方にひき、それから前に投げ出した。
イメージは、ボール投げ。
ドガァァァァァン
氷の砕ける音も混じる。
ただ一言、「パンチ」で済ませるだけではシンプルすぎる威力。
それにより生まれた風圧は先程の蹴りの時よりも凄まじいもので、それはまるで竜巻の中心にいるかのよう。
観客もたまったものではなく、宙に体を投げ出されている人間もいた。
来年から、客席にはシートベルトが備え付けられるようになったのは余談である。